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NOVEL

BISQUE DOLL W

act  5

+++ このお話は、V〜矢車菊の青〜 の後日談にあたります。+++

 



 

 「ここか・・・。」

 ダウンタウンの外れに目的の店を見つけて、オレはそう小さく呟いた。

 

 『ヴィンセント』というその店は、石造りでちょっと中世の建物を思い起こさせる。

 ラスベガスでは・・・、いや、特にこのダウンタウンでは見かけない造りなせいか、それはどこか、異質な雰囲気を醸し出しているかのように見えた。

 

 聞いた話では、ラスベガスの裏の世界を取り仕切る人物が経営をしているという。

 カジノで出会ったおじさんの言うとおりなら、キッドはここへ連れ込まれたということになるのだが―――

 

 オレは、店から少し離れた別の建物の影から、様子を窺っていた。

 あの後、カジノでこの場所をあのおじさんから聞き出してすぐ、タクシーを飛ばしてダウンタウンに入った。

 タクシーからは適度なところで下車し、自分の足で例の店を探しに出歩いたのだが、思ったより簡単にその店を見つけ出すことに成功した。

 ・・・・・と、まぁ、ここまでは良いとして。

 

 ――キッドのヤツは、どこに行ったんだ?

 まだ、あの店に?

 それとも、もう店からは出て、勝手に一人で動き出したのか?

 

 考えながら、オレは、注意深く店の周りに目を走らせる。

 Barとして展開しているらしいその店は、まだ太陽の高いこの時間では、入り口の門は堅く閉ざされていた。

 オレは時計をしている左手首を持ち上げて、時刻を確認する。

 ・・・まだ昼過ぎか。 こんな時間なら店も閉まってて当然だよな。

 ・・・どうする? 今、このまま踏み込むか・・・。 それとも――

 

 ブラインドでしっかり閉ざされているので、店の中の様子を窺い知ることはできない。

 見たところ、入り口は二ヵ所。

 ご立派なセキュリティがされていそうな正面入り口と、正面に比べれば、多少は警備が手薄そうな裏口があった。

 オレは目を細めて、その裏口を見る。

 扉は重そうな鉄製のもので、かなり頑丈そうだ。

 ・・・・・従業員の通用口って感じじゃないよな。

 

 オレはニヤリとすると、今まで身を隠していた建物の影から一歩、外に踏み出す。

 店の裏口の前を何気なく通り過ぎるフリをしながら、間近でじっくり見せてもらった。

 当然の事ながら、裏口のドアにも立派な錠がある。

 それを無視して、あの鉄の扉を蹴破るなんてことは無理だ。

 ・・・・・だとすると、誰か中にいる人間を捕まえて、鍵を奪うしかないか。

 オレは、そう結論を出すと、再びその店に背を向けて、表通りへと足を進めた。

 

 しばらくこの『ヴィンセント』という店の前で、はることにする。

 出入りする人間をチェックしながら、日が暮れるのを待って、潜入する機会を窺うために。

 

 その間、オレは何度かホテルに連絡を取って、オレの部屋にキッドの奴が戻ってきていないか、確認してもらったのだが。

 依然、キッドはホテルには戻っていないようだった。

 

 

+++     +++     +++

 

 

 「・・・にしても、まさかワシ達まで新一君の後を追って、ラスベガスに行く事になるとはなぁ?」

 機内でガサガサと新聞を広げながら、そう博士が溜息混じりに言う。

 その横のシートにちょこんと腰掛けている赤毛の少女は、クスリと笑って窓の外を眺めた。

 

 彼女がラスベガスにいる新一からの電話を受け取ったのは、昨夜遅くのこと。

 夜が明けて、日本で置いてけぼりを食った博士と哀は、実はまっさきに成田空港に向かっていたのだった。

 

 「・・・ま、いいじゃないの。博士だって、カジノで一攫千金、狙うんでしょ?」

 「それはそうじゃが・・・。問題は新一君達の方じゃな。また無茶をしとらんといいのじゃが。」

 「さぁ、それはどうかしらね?相手が相手だし・・・。ま、昨夜の工藤君の電話じゃ、今のところ、まだ手探り状態だったけど。」

 「彼らだって、まだ着いて二日目じゃろう?仕方あるまい。」

 「・・・でも早速、怪盗さんとは、はぐれてしまっているようよ?」

 「キッドと?何じゃ?彼は新一君と別行動を取る事にしたんじゃろうか?」

 

 紙面から顔を上げて目を丸くした博士に、哀は小さく笑った。

 

 「あら。そもそも怪盗と探偵が一緒にいる事の方が、よっぽど不思議だと思うけど。」

 「い、いや、でもしかし・・・。あの二人はあれでなかなか・・・・。」

 どう言っていいのかわからなくなってしまったのか、口ごもる博士に、哀は苦笑する。

 

 

 怪盗と探偵―――

 その立場は、通常、相対するものであることには違いない。

 それなのに、あの二人は。

 お互いに好敵手という立場を変えることはないまでも、何故か肩を並べて立っている。

 そうして二人一緒にいることが、不思議と似合っているようにさえ思えるのだ。

 

 

 哀は溜息一つ、手近なシートポケットから雑誌を抜き出すと、パラパラと興味なさげにページをめくる。

 「・・・・結局、似た者同士なんじゃない?無鉄砲でバカなところも含めてね。」

 「おいおい、哀君・・・。」

 「本当のことよ。」

 毎度、手厳しい哀の言葉に博士は肩を竦めると、再び紙面に顔を戻した。

 哀はそんな博士を目の端に映しながら、

 「・・・でなければ、普通、乗り込んで行くわけないもの。殺人鬼のところへなんてね。」

 と、そう一言付け加えたのだった。

 

 

 +++     +++     +++

 

 

 日もだいぶ傾いた頃、『ヴィンセント』という店の看板にも明かりが灯る。

 俄かに店の周りが賑やかになってくるのを、オレは少し離れた物陰からじっと見守っていた。

 店に入っていくのは、どうにも胡散臭そうな連中ばかり。

 だが、そんな彼らでも正面玄関では入念なセキュリティチェックを受けて、ようやく店に入れるといった具合で。

 オレなんかが、ドサクサに紛れて忍び込むというのは、どうにも難しい状況だ。

 だとすると、やはり裏口から潜入するしかないのだが・・・。

 そう思いながら、オレは裏口へと目線をずらす。

 と、そこには、ガタイのいい男が一人、門番のように立っていた。

 

 ・・・よし、行くか。

 オレはグッとキャップの唾を下げると、それまで身を隠していた物陰から一歩踏み出した。

 そのまままっすぐ裏口へ向かう。

 

 素知らぬ顔で店の裏口を通り過ぎようとしたその瞬間、オレは予め右手に持っていた2,3個の小石を裏口目がけて投げつけた。

 それが、門番の男の注意を引く。

 その一瞬をついて、オレはヒラリと門を飛び越え、一気に裏口の前に降り立った。

 男が驚きの声を上げる前に、自慢の右足を繰り出す。

 猛スピードで振り上げたオレの足は、狙いどおりヤツの首にクリーンヒットしたのだが。

 残念ながら、ヤツは首もとを押さえ込んで唸るだけで、倒れる様子はない。

 さすが、体も大きいだけあって、タフなようだ。

 仕方がないので、オレはヤツが体勢を立て直す前に、左手首を出して、博士の麻酔銃を撃ち込んでやる。

 対ビスク・ドール用に少しは強化された麻酔針は、その大柄な男を瞬殺した。

 いや、もちろん眠ってもらっただけだけど。

 門番の男をすばやくカタしたオレは、ソイツの衣服をごそごそあさって、予定どおり裏口の鍵をを手に入れることに成功した。

 

 ・・・さてと。

 オレはペロリと唇をなめると、目の前にある入り口のドアの鍵穴に鍵を差し込む。

 開けたとたん、何が起こるかわからないので、一応、それなりに心の準備はしておくとして。

 

 そうして、重そうな鉄の扉が、ギィと古めかしい音を立てて開く。

 だが、オレを出迎えたのは武装した男達なんかではなく。

 どこまでも続く暗黒だけだった。

 

 

 ・・・・何だ、ここ・・・・?真っ暗で何も見えねーんだけど。

 

 時計のライトがどうにか、足元だけは照らすことができるが。

 そこに見えるのは、石畳の階段で、どこまでどう続いているのかなど、まるでわからない。

 とりあえずは、すぐ傍に人の気配がないことだけは確かだが。

 じめじめとしていて、腐敗臭にも似た嫌な臭いがオレの鼻を掠めた。

 

 狭い石壁に囲まれた階段を、注意深く降りていく。

 と、急激に前が開けた。

 右の奥に何かあるのがわかる。

 

 ・・・・・何だ?鉄格子?その向こうに何かいる?

 

 オレは目を凝らして、ソレが何か確認しようとした。

 そして――

 それが倒れ伏している人の姿で、それが先程から漂っている腐敗臭の原因だとわかり、一瞬おののく。

 

 ・・・お、おい、まさか。

 この鉄格子の中に、キッドのヤツもとっ捕まってたりしないだろうな?!

 

 そう思って、オレが鉄格子の方へ近づこうと一歩踏み出した時だった。

 背後でドアの開く音がした。

 慌てて振り返ったが、そこにあるのは闇だけで、何の気配もない。

 ・・・おかしいな?

 不思議に思って首を傾げるオレの頭上から、突然、大きな布を広げるような音がした。

 驚いて上を見上げると、白いものが舞っている。

 ソレが何なのか、瞬時に理解したオレは、思わず目を見開いた。

 

 「・・・なっ、・・・キッ・・・!!! うっわ・・・・っ!!」

 大きく広がった白いソレは、何の前触れもなくオレの上にそのままドスンと落ちてきた。

 

 「・・・・イッテェェェ・・・・。」

 上から落ちてきた物の重さに耐え切れず、オレは石段に尻餅をつくしかなかったのだが。

 ・・・のヤロー、痛ぇじゃねーかよ!!

 そう思って、オレの体の上に乗っかったままの白い物体を睨みつけた。

 

 「・・・キッドっ?!お前、この野郎!もうちょっとマシな登場の仕方できねーのか!」

 そう怒鳴りつけてやったのに、返事がない。

 「おい、キッド??」

 ちょっと心配になって、反応がないヤツの体を抱き起こす。

 と、キッドはようやくオレの方へ顔を向けた。

 そしてシルクハットのつばを少々上げる。

 右目がモノクルに隠れたキッドの表情は、相変わらずな不敵な笑みを浮かべたもので。

 

 「・・・・あ。名探偵、ナイスタイミングv オレ、ちょっともう動けそうもなくて・・・・。」

 「はぁ?!おいっ、お前、どうしたんだ?!」

 

 ぐったりとしたキッドは、一向にオレの体から起き上がる気配もなく。

 しかもなんだか、触れているキッドの体がひどく冷たく感じられるが・・・。

 

 「おい、キッド?!しっかりしろよ!おい!!」

 見たところ、撃たれたり切りつけられた外傷は無いようだが、キッドの様子は尋常じゃない。

 何だよ?!どうしたっていうんだ?!

 

 「・・・・名探偵、とりあえず、肩、貸してよ。早いトコ、ここから脱出しないと。オレ、今、奴らとやり合う体力、もう残ってないからさ。」

 「・・・お前な・・・。」

 

 ずいぶん勝手な言い分だが、この状況では仕方がないか。

 オレはヤツの腕を引っ張り上げて、そのまま自分の肩に回す。

 

 「・・・わかった。その代わり、出たら、きちんと話を聞かせてもらうからな!」

 苦笑する奴を横目に、鼻息荒くそう言ってやる。

 そのまま、今、降りてきたばかりの石段を二人で上って行ったのだった。

 

 

 

 

 「Is it true to say that Kid ran away? Such a  poison is taken, and I can't believe that it doesn't die.」
 (キッドに逃げられただと?あんな猛毒を飲んで死なないなどとは、信じられん!)

 Barの中のゴージャスなソファに腰掛けていたその店の主、ヴィンセントは部下からの報告に、声高に叫んだ。

 酒の入ったグラスをテーブルに叩きつける彼に、部下は深々と頭を下げる。

 その様子に、ヴィンセントが舌打ちしたところで、今更もう手立ては何もなかった。

 

 すると。

 

 「What is the matter?」
 (どうしたんだ?)

 

 いきなり背後から響いた声に、ヴィンセントは驚いて振り向く。

 そこで彼の目に映ったのは、陶器のように白い顔をした男だった。

 マリンブルーの瞳が不気味に輝いて、赤い唇が斜めに持ち上がっている。

 

 「BISQUE DOLL!」
 (ビスク・ドール!!)

 「As before, a store seems to keep prospering. ・・・By the way.It heard that there was present given to something, me.」
 (相変わらず、店は繁盛しているようだな。・・・ところで、オレに何かプレゼントがあると聞いたが。)

 「・・・Kid the phantom thief  was intended to be given to you. But・・・」
 (・・・怪盗キッドをプレゼントするつもりだった。だが・・・。)

 「Did he run away?」
 (逃げられたのか?)

 

 ニヤリとするビスク・ドールにヴィンセントは力なくうなだれる。

 そして、普通なら死んでいるだろう猛毒をキッドに服用させてあったことも告げた。

 本来なら、ここでキッドの死体を手渡す事ができたのだったと。

 

 それを、ビスク・ドールは鼻先で笑う。

 

 「The poison of such a childish trick・・・。You can't kill him by such a thing.
 (あんな子供だましの毒・・・。そんなものでは、奴は殺せなどしない。)

 ガラス玉のような瞳を細めて、ビスク・ドールが言う。

 そのビスク・ドールの物言いに、ヴィンセントはやや不満げに溜息をついて見せた。

 

 ビスク・ドールは白い指先を誰も手をつけていないグラスへ持っていくと、自分の口元へ運んで、口を潤す。

 琥珀色の液体のグラスを見つめながら、思い出したように赤い唇が動いた。

 

 「By the way ・・・Who else was coming to the store?」
 (そうそう・・・。奴の他にここに誰か来なかったか?)

 「・・・There is evidence that someone entered secretly from the back door.」
 (裏口から誰かが潜入した形跡があるが・・・。)

 それを聞いて、ビスク・ドールはさらに笑みを濃くする。

 「・・・I see. The detective came together, too」
 (・・・なるほどね。やはり、名探偵も来ていたか。)

 

 どこか愉しげにそう微笑むビスク・ドールの真意が読み取れないヴィンセントは、例の取引の日時と場所をキッドに知られてしまったことを素直に白状した。

 だが、ビスク・ドールは人形のような目を向けると、

 「No problem. One entertainment increases, and rather looks forward to it.」
 (問題無い。むしろ、余興が一つ増えて、楽しみなくらいだ。)


 見る者が凍りつくような不気味な笑みを口元に浮かべて、そう言った。
 

 

 

 

To be continued

 


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相変わらず話の展開が鈍いな・・・。

とりあえず、キッドと新一さんが合流です。
哀ちゃんと博士もこっちに向かってます。
そして、やっとビスク・ドールさんが出てきました。
まだ絡んでないけど・・・。

まぁじっくり書いていこうかと・・・・
って、単に私がノロイだけ・・・。(苦笑)

 


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