Heart Rules The Mind

Novel Dairy Profile Link Mail Top

NOVEL

BEST PARTNER
 

11  海の上の誕生日パーティ
 

 

そして、今日は、大田原氏の誕生日。
オレは誕生日パーティが開かれる豪華客船の中にいた。

今回は、殺人予告とキッドの予告がバッティングしたことで、一課と二課の
合同での警備となった訳だが・・・。
当の大田原氏はまるで警察を当てにしていないようで、何かと非協力的だった。
警備員の人数や配置についても、ちっともこちらの要望を聞き入れようとせず、乗船できたのだって、ほんの少しだけだったんだ。

余程、自分のとこの警備に自信があるか、はたまた警察と関わりたくないのか。
どちらにしても、大した度胸の持ち主だ。

まだ、パーティ開始まで少し余裕があるので、オレは会場内を見渡しながら
ぼんやりとそんな事を考えていた。

「工藤君、ここにいたんだ。」

そこへ高木刑事が小走りでやってきた。

「そろそろパーティ出席者の乗船が始まるよ。なのに、大田原氏ときたら出席者の持ち物チェックもさせないつもりらしくてさ!
もう、目暮警部はカンカンだよ〜!!」

・・・へぇ。まぁ、確かに自分の誕生日を祝いに来てくれる人を疑うようなマネは失礼と言えば失礼だけど。

「本当に腹が立つよ。これじゃあ、守るものも守れないよね?!」

「・・・ところで、高木刑事。殺人予告を出した犯人については
その後、何かわかったことはあるんですか?」

オレが苦笑交じりにそう言うと、高木刑事は首を横に振った。

「残念ながら。・・・というか、大田原氏を恨んでいる奴はもうたくさんいすぎて誰が殺しに来ても全然不思議じゃないってことくらいしか。」

なるほど。確かに大田原氏本人、かなり強引な手腕の持ち主だというし、恨みを持つ人間なんて、はいて捨てるほどいるという訳か。

「しかも今日、キッドが狙ってるダイヤも、どこかから借金のカタに取り上げたシロモノだということだよ?本当に、あんな人を警備しなきゃいけないと思うと気が重いよ・・・。」

うなだれた様子で言う高木刑事に、オレも少しは同調した。

するとそこへ黒いスーツに身を包んだ男達に囲まれている大田原氏と一緒に目暮警部がやって来た。

「・・・ですから、もう少し警備を厳重にしないと、犯人はどこから来るか・・・」

一生懸命説得しているような目暮警部を、大田原氏はただうるさそうに見やるだけだ。
と、一瞬、彼とオレは視線があった。

やがて大田原氏は、まっすぐオレの方へ向かってきて、いやらしい笑顔を浮かべた。

「いやぁ、これはこれは。君があの有名な高校生探偵、工藤新一君かね?こんな美少年とは、驚きだな。世間が騒ぐわけだ。」

そう言いながら、ごつごつした手を差し出して、オレは握手を求められた。オレは一瞬とまどった・・・というか、握手なんかしたくなかったんだけどそういうわけにもいかないだろう?
仕方なく、おずおずと手を差し伸べた。

すると、彼はすごい勢いで握り返してきて、その様子をボディ・ガードの一人に写真まで撮らせたんだ。何考えてんだ、このオヤジは?!

「高校生探偵のお出ましとは、あの殺人予告の犯人に感謝せねばな。では、もうすぐパーティが始まるので、私はこれで失礼させてもらう。工藤君もぜひ楽しんでいってくれたまえ。」

あのね・・・。
オレは、あんたの誕生日を祝いにきたんじゃねーっての。

殺人のターゲットにされているにもかかわらず、まるで緊張感のない当人にオレ達は思いっきり脱力した。

 

*      *      *

 

午後8時。
船内のメインホールで、大田原氏の誕生日パーティが始まった。

パーティに招かれた人々は、各界の著名人ばかりのようで見知った顔のオンパレード。
これだけの人を呼べるなんて、大田原氏もたいしたもんだ。

で、実際、警備の状態はどうなってるかというと、
警察関係者は、会場の隅の方に追いやられてしまった。
オレ達みたいのがうろつくと、パーティがしらけるとか言われて。

まぁ、大田原氏のそばにはいつでも黒服のボディ・ガードが7人もくっついていて彼的にはすっかり安心しているようだけど。

そして、会場の中央には、本日キッドが予告を出したダイヤモンドが
これみよがしに展示されてある。
その周りにはやはり、黒服のボディ・ガードが張り付いているが、警察の警備は付かせてもらえなかったようだ。
オレの隣で中森警部がイライラしながらタバコ吸ってるし。

大田原氏に言わせれば、怪盗キッドの登場ですら、
自分のパーティの余興の一つのように考えているとか。

 

さて。
殺人予告に指定された時刻は、夜9時から、パーティ終了の10時半までの間ということだけど・・・。
犯人はどんな方法で殺るつもりだろう?

パーティ開始前に船内をうろついて、一応チェックはしておいたけど、
特に不審な点は見当たらなかった。

出席者が何か危険物を持ち込んでいたとしたら、それはわからないけど
あれだけしっかりガードされているとなると、なかなか手は出せないだろう。

オレはぐるりと会場内を見渡す。
上から万が一狙撃される事があるとしても・・・・。
そう思って、上を見上げると2階にはしっかりと黒服の男達が警備していた。
・・・なるほど。あれだけいれば、下手なマネはできないか。

確かに警察の警備を断るだけはあって、しっかりとしたボディ・ガードを雇ったようだな。

オレが考えにふけっていると、中森警部がふいに寄って来た。

「まったく、大田原氏は何を考えているんだ?あんなところにダイヤを置いていたらまさにキッドに取ってくれと言わんばかりだ!!
そうは思わんかね?工藤君。」

忌々しそうに語る中森警部にオレは苦笑した。

「ダイヤは大田原氏が自分で守る気なんですから、警部はキッド逮捕に専念されれば
いいんじゃないですか?」

「うむ。そうだな。ところで、今回のキッドの予告状には、具体的な犯行時刻やその経路が何一つ記されていなかったんだ。
奴は一体どこから来るのか・・・。
一応、グライダーで空から現れたときのことを考えて、空はへりで監視しているがね。」

「奴のことですから、もう船内に侵入しているかもしれませんよ?
出席者に紛れているか、もしくは従業員に化けているかも・・・。」

オレがそう言うと、中森警部は、ナニィ!?と辺りを見渡した。
が、なにしろこの人数である。
誰も彼もが怪しく見えるわけで・・・。

そんなことより、キッドが犯行時刻を指定していない方が、オレとしては気になった。
奴の事だから、今回の殺人予告の事も当然耳には入っているだろう。
・・・ということは、だ。
その殺人予告の犯人が現れた混乱に乗じて、ダイヤを盗む気かもしれない。

その可能性は大だな・・・。アイツの性格からして。

オレは面倒な事が重なった事に、今更ながら大きな溜息をついた。
そこへ、すっと、カクテルグラスが差し出される。

え?

「お飲み物をどうぞ!」

突然のことに驚くと、いつのまにか、オレの横にたくさんのグラスを載せたトレイを手にしたボーイが立っていた。
差し出されたグラスにはキレイな青い液体とトッピングされたさくらんぼ。

・・・カクテルだろ?これ。
未成年に酒なんか勧めるなよ?しかも警察の人が周りにいるのに。

「・・・いえ、あの・・・。」

オレが断ろうとすると、ボーイはにっこり笑って、ジュースもありますよ?と
トレイに乗った他の飲み物を見せた。

その言い方がなんとなくオレをバカにしたように聞こえたのは気のせいだったか?

ちっくしょー!
オレだって別に酒くらい飲めるぞ!(そりゃ、あんまり強くはないけど)けど、今は仕事中なんだから仕方ねーだろ?

ちょっとムカッとしながら、オレンジジュースの入ったグラスを取った。
すると、ボーイは満足そうに頷いて、ごゆっくりパーティをお楽しみください、なんて言い残して、人の波に消えていった。

だから・・・・。
オレは仕事に来たんだって・・・。

よく冷えたジュースを口に運びながら、ふとさっきのボーイの笑顔を思い出す。
今更ながら、ちょっとした違和感を覚える。

!!
もしかして、アイツか?!

オレは慌ててボーイが消えていった方に目をやるが、もう彼の姿はどこにもなかった。

 

 

*      *     *

 

 

そして、時刻はそろそろ殺人予告の開始時刻9時を迎えようとしていた。

パーティの方は、大田原氏の挨拶、招待客の何人かのお祝いの言葉などが一通り済み、ご歓談の時間といったところだ。

立食パーティ形式をとっているが、どうやらこれから、大田原氏の大好物のビーフシチューが出てくるらしい。

オレはふと気になって、船底にある料理室に向かった。

 

料理室は少しドアが開いており、そこからはビーフシチューのいい香りがした。
オレはその隙間から中の様子を伺おうとしたところで、いきなり背後から声がした。

「風穴を開けられたくなかったら、静かにしな!」

ギクリとして振り向くと、ヒゲ面の男が銃を構えて立っていた。
ヒゲに埋もれた目がギラギラと光っている。

やっべぇ!
油断した!

「おら!手を上げるんだ!」

そのまま、オレは料理室へ入らされた。
素早く視線を移せば、料理室の中では年配のコック一人残して、あとの調理人はすべて縛り上げられていた。

そしてそのコックは大きな鍋の前に立たされ、中にいたもう一人の男に
銃を突きつけられていた。

「何をする気だ?!」

オレが言うとヒゲ面の男はクックと笑った。

「こんなところへ来た自分の運命を呪うんだな。」

言いながら男は、仲間の方へ顔を上げた。

「おい、できたか?」

「おう!」

もう一人の男が答えて、銃口をぐいとコックの背中に押し付け、コックは仕方なさそうに鍋の脇にあった小瓶を取り上げ、中に入っていた白い粉末をさらさらと大きな鍋に流し込んだ。

オレはちょっと息をのんだ。

毒か!!

ちょっと、待て!!そのビーフシチューは、パーティ客みんなに配られるんだぞ!
大田原氏だけじゃなくて、全員殺す気か!?

オレは目を向いて、自分の後ろのヒゲ面の男を振り返った。

「大田原氏だけが狙いじゃなかったのか?!」

「そうさ!アイツを殺してやるんだ!!
アイツのためにいろいろ汚いマネをしてきてやったのに!!
約束を守らない奴が悪いんだ!!」

どうやらこの二人組みはもと大田原氏に雇われていた奴ららしい。
本当にいろんなところで恨みを買ってる人だな・・・。
とりあえず、オレは犯人達を説得しようと試みた。

「そのビーフシチューを食べるのは、大田原氏だけじゃないんだぞ?」

「知るか!アイツの知り合いなんか!!」

くそ!・・・
大田原氏が死ねば、他の人はどうでもいいのか。
オレは、舌打ちした。

大きな鍋から立ち上る白い湯気の下で、ぐつぐつと煮えたぎるビーフシチューをオレはうっすら冷や汗を浮かべながら見つめた。

どうする?
なんとかしないと、やられちまうぞ!

オレは顔を上げて、コックの様子を見た。
彼は目を伏せて大きな鍋の中身をかきまわしていたけど、そのまつ毛の下では大きな目が忙しなく動いて、辺りの様子を伺っていた。

なんとかするつもりなのかもしれない!

とすれば、このコックと協力すれば、上手く切り抜けられるかもしれないぞ!

オレはジリジリ動いて、コックの方へ寄ろうとした。
ところが、ちょっと移動したとたんに、

「動くんじゃねぇ!!」

くっそう!!
コックはまだ俯いたままだ。
なんとか注意を引きたくて、オレは少し考え、
それから、床に転がっていた小さな鍋をちょっとだけ蹴飛ばした。

「何してやがる!」

背中にグリっと銃口を押し付けられたが、オレの思惑どおり、
鍋を蹴飛ばした音にコックはビクッとして顔を上げ、目を見開いてオレを見た。

なんとかしよう!って言ったつもりだったんだ。

それがわかったらしくてコックはかすかに頷き、自分を落ち着けようとして
唇をなめた。

どうする?

オレが聞くと、コックはしきりに手を動かして味付けをしながら、
視線を下げて鍋の中を見、それから目を上げて二人の男達に代わる代わる視線を走らせ、最後にその黒目をグルっと一周まわした。

それでオレは思わずニヤっと笑ってしまった。
コックが大きな鍋の中身を奴らにぶちまけるつもりなんだってことがわかって。

なるほど、そいつは名案だ。
よし!やろう!!

オレはコックの目を見て、頷いた。
彼もゆっくりと頷いて、鍋の取っ手に手を伸ばした。

「・・・どうもうまくいかない。火の勢いが強すぎるようだ。
隣のコンロに代えるからちょっとどいててくれ。」

男は小さく舌打ちをしながら後ろに下がった。
コックはそれを確認した後、鍋を持ち上げようとしたが、なにしろ業務用の大きな鍋だ。そう簡単に持ち上がるわけがない。

すると、オレの後ろの男が銃口を押し付けたまま、言った。

「おい、お前、手伝え!妙なマネすると撃つぞ?」

よし!!
オレは内心やった!と思いつつも、わざと渋々鍋の方へ向かった。

コックの隣に立ち、鍋の取っ手に手を伸ばすと、コックがオレを見て少し笑った。

「右隣のコンロへ動かせばいいんですか?」

オレはわざとらしくコックへ聞くふりをして、コックに耳打ちをした。
鍋を持ち上げたら、すぐ手を離して鍋のそばから離れるように。
鍋をそのままぶちまけるより、オレがアイツらに向かって蹴り飛ばした方が効果的だと思ったからだ。

そしてオレたちは、声をかけあって鍋を持ち上げた。

瞬間、オレは足を上げ煮えたぎる大きな鍋を蹴り飛ばした!
アウトフロントに当てたので、鍋は回転がかかって大きくカーブし
男達が立っている方へ飛んでいった。

手前にいた男が、煮えたぎったビーフシチューをまともにかぶせられてひっくり返りヒゲ面の男は飛んできた鍋を避けようとバランスを崩して倒れた。

オレはヒゲ面の男めがけて、その辺に落ちてる調理器具を片っ端から
蹴り飛ばしたが、奴をぶちのめすほどには威力が足らない。

「やりやがったな!!」

男はそう言うと同時に、オレに向けて発砲したが余程焦っていたのか、
狙いはあさっての方向へ。
オレは避けるまでもなかった。
男はそのまま銃を片手に、料理室を抜け出した!

ヤロー!
逃がすかよ!!

オレは男を追うために通路を走りながら、目暮警部に無線連絡を入れる。
会場にいた警部達には、料理室でまさかこんなことが起こっているとは思いもよらぬことで、かなり驚いていたが。

『銃を持った犯人が、逃走しました!!それから、料理室にその仲間の一人が・・・』

事情説明している最中、脇の細い通路に白い陰が見えた。

奴か!?

「止まれ!!」

オレは麻酔銃の狙いを定めようと、そっちを見て、呆然とした。

 

それは、・・・オレが追っていた犯人ではなく、あの白い怪盗だった。

 

「おま・・!!キッド!!」

背を向けたままの奴は、オレのその声にゆっくりと振り返った。
そしてそれと同時に、手に持っていたものをバサリと床へ放り投げた。

それは、紛れもなくボーイの衣装!
ってことは、やっぱりさっきのボーイはてめぇかよ!!

オレはギッとキッドを睨みつける。
ったく、この忙しい時に!!

「よぉ、名探偵!事件か?」

相変わらず、人を食ったような笑いをしてやがって!
やっぱり、コイツ、事件の混乱に紛れてダイヤを盗む気だったんだな?

「今はオメーにかまってる暇はねーんだよ!ちくしょう!!」

オレはそう言って、キッドを残して男を追った。

 

*      *     *

 

キッドに気をとられたせいか、オレは完全に犯人を見失ってしまった。
仕方がないので、パーティ会場へ向かう。
もしかして、犯人が直接大田原氏を狙う可能性もあるかもしれない。

会場へたどり着くと、辺りは騒然としていた。

「落ち着いてくださ〜い!!」

必死に声を荒げて呼びかけているのは高木刑事だ。
オレは、なんとか人ごみを掻き分け、高木刑事のそばまで行く。

「た、高木刑事!!」

「工藤君!!」

「すみません!犯人を見失ってしまって!!それより、大田原氏は?!」

「それが、工藤君の連絡を受けた後、ボディ・ガードとどこかへ姿を消してしまって・・・。
なにしろ、この混乱振りで。本当に手がつけられないよ!!」

何ィ?!どこ行きやがった?あのオヤジは!!

「あ、あと中森警部は?!」

「会場の出入り口の方に今、言ってもらってるけど?!」

オレたちがそう言っている間にも、パーティ客達は我先にと、会場を抜け出そうとパニック状態だ。

そこへ。

「か、怪盗キッドだ〜!!」

2階の窓際に立つ白い怪盗を指差して、人々のどよめきが起こる。

なんだとぉ〜!!
今、出てくんじゃねー!コノヤロー!!

オレはぎりっとキッドを睨みつけるが、キッドの表情までは距離がありすぎてわからない。

が、間髪入れずに、再び女性客達が悲鳴を上がった。
それは、キッドへの黄色い声ではなく、明らかに恐怖によるものだ。

何だ、今度はどうした?

人の波でまるで何が起こっているか、オレと高木刑事のいる場所では確認できない。
すると、悲鳴の後、客達は今までの混乱振りが嘘のように静まり返った。

人の波が自然に掻き分けられて現れたのは、銃を手にしたままの
あのヒゲ面の男だった!!

「大田原はどこだ!!アイツを出せ!!」

男は錯乱したように叫びちらし、客達に銃を向ける。

「落ち着け!!今、大田原氏がどこに行ったか、確認中なんだ。
少し、待ってくれ!」

高木刑事が男に話し掛けるが、男はまるで聞く気がない。

「うるせぇ!!今すぐじゃなきゃ、かたっぱしから殺すぞ!!」

オレはゆっくり高木刑事のそばから離れる。
隙を見て、犯人の男に麻酔銃を打ち込もうとしたんだ。

すると、バチっと男と目が合った。

「お前!!さっきのガキ!!ちくしょう!!
お前さえいなけりゃ、俺たちの計画はうまくいったのに!!てめーから殺してやる!前へ出て来い!!」

男はまっすぐ銃口をオレに向けたまま、どなった。

とたん、高木刑事がオレをかばうように出てきた。

「彼は警察関係者じゃない!人質なら僕が・・・!」

「うるせぇ!ガタガタ抜かすと、撃ち殺すぞ!」

オレは、高木刑事の方をチラリと見やり、頷いた。

「大丈夫です。なんとかしてみせますから。」

小声でそう言って、オレはゆっくり犯人の方へ歩いていった。
確かにこの麻酔銃の射程距離は短いから、この状況はかえってありがたい。なんとか、チャンスを狙ってみよう!

かなり男のそばまで行ったところで、オレは立ち止まったが
男はもっとオレにそばに寄るように言った。

そして、冷たい銃口をオレの脇腹に押し付けて、男はニヤリとした。

「・・・殺してやる!」

そう言った奴の目はもう尋常な人の目ではなかった。
やべー・・、この距離じゃ、もしかして麻酔銃打ち込んでも、一発くらいは食らっちまうかもしれない。

そう思いながらも、麻酔銃を撃つタイミングを見計らう。
男がカチと引き金に指をかけるその瞬間、オレは麻酔銃を打ち込んだ!!
と、同時に男のそばから、離れた。
銃弾を避けるつもりで。

が、銃声は聞こえなかった。

あれ?

オレがそう思って男を見上げると、ちょうど麻酔が効いてその体が
ぐらりと倒れるところだった。
しかし、その手にはもう銃はなかった。

銃は床に転がっていたんだ。
そしてその横には、スペードのエースのトランプ・カード。

オレは2階の窓を仰いだ。
この緊迫した状況を傍観していたはずの白い怪盗は、
その瞬間、シルクハットのつばを僅かに上げて見せた。

アイツ・・・!
絶対、今、笑ってる!!

オレは見えなくても、キッドの表情が容易に想像できてしまった。

「工藤君!!大丈夫かい?!」

男にしっかり手錠をかけた後で高木刑事が駆け寄ってきて、オレは笑顔を返した。
そこへ、中森警部もやってくる。

「キッド!!今日こそは、観念させてやるぞ!」

すると、キッドは純白のマントを翻して、そのまま2階の窓から外へ消えた。

あれ?アイツ、ダイヤは?!
まさか、もう盗ったのか?!

 

そこへ、目暮警部が数人の警官とやってきた。

「おい、たいへんだ。今、料理室に残った方の犯人が白状したんだがこの二人組みは、例の殺人予告を出した奴らじゃない!!
こいつ等は便乗犯だ!」

なんだって?!

警部の言葉にオレ達は愕然とした。
それに追い討ちをかけるように、警官の一人が報告をする。

「それから大田原氏ですが、ダイヤモンドを持って、別の小型船で
脱出したようです!」

なんて、勝手なオヤジなんだ!
やばくなったら、自分だけトンズラするなんて!!

けど、まずいぞ!大田原氏を追わないと!!
もしかして、その小型船に本当の犯人が乗り込んでいるかもしれない!!

「ダイヤがそっちにあるなら、キッドもそこへ向かったわけだな?!」

中森警部は数人の警官を連れて、すぐさま会場を出て行った。
オレたちもそれに続いたのだった。


 

 

BACK      NEXT

 

なんか、まとまりが無く、だらだらと長い・・・。
次回こそは、キッドとの絡みを中心に描きます!!
ああ、私が書きたいのはそれなのよ!!

2001.07.07

 


Copyright(C)ririka All Rights Reserved.   Since 2001/05/04