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16  会長の正体
 

 

・・・あー・・・ねむ。

 

オレは目をこすりながら、手元の時計で時刻を確認する。

ただいまの時刻、朝 9時18分。

それでも、4時間は寝たかな。

昨夜からオレは、キッドの予告状の暗号解読にとりかかっていて、結局ベットに入ったのは明け方5時過ぎ。もう朝刊の配達がされる頃の時間だった。

にしても。
今回の暗号はちょっとタチが悪かった。

秘められた規則性を導き出すまでは、まぁ良しとして、そのあとがいけない。
だって、文に変換するのにものすごい面倒な方法を使ってるんだぜ?

こんな厄介なのが中森警部達に解読できるとは思えないし。
アイツのことだから、これがオレの手に渡ると読んでやったに違いない。

オレに対する挑戦状って言えば、聞こえはいいかもしれないけど、
はっきり言って、これはオレへの嫌がらせ以外の何物でもないと思う。

 

・・・ほんとイイ性格してるよな、アイツ。

 

ま、いいけどね。とりあえず、今からシャワーでも浴びて、それから警視庁へ行くか。

そう思いながら、バスタオルを持って、リビングを横切る。

 

テーブルの上には、置きっぱなしにされた朝刊。

いつも朝食を取りながら、新聞をざっと目を通すのが日課だけど、
その日のオレは昨夜の寝不足もともなって、眼精疲労からくる頭痛に悩まされており、まだ開いてもいなかった。

 

 

 

警視庁。

 

さっそく解読した暗号を中森警部らに教えようと、オレはフロア・ロビーを歩いていた。

と、そこへ何人かの人たちが慌しく通り過ぎていく。
オレは脇に寄って、急いでいるらしい彼らに道を譲った。

・・・あれ?高木刑事だ。

その中になじみの刑事の顔を見つけて、オレはふと声をかけた。

「・・・高木刑事!何か、事件ですか?」

「・・あ、ああ!工藤君!」

オレの声に高木刑事は足を止め、走っていく他の捜査員達の輪から抜け出てきた。

「おはよう!もしかしてキッドの件?朝からご苦労様だね。」

「あ、いえ。それより、高木刑事の方は・・・。何かあったんですか?」

「ああ、ほら、昨夜遅くに女性の死体が東京湾で発見された件でね・・・。
工藤君、もしかして今朝の新聞とかニュース、まだ見てない?」

「あ、はい。すみません。」

・・・ちっ!アイツの暗号にかまけて、今朝は何にも見ずに来ちまったんだよな。くそ!
そんな事件が起きてたなんて・・・。

 

高木刑事の話では、昨夜11時過ぎ、東京湾に女性の変死体が通りかかった若い男女によって発見されたと言う事だ。

絞殺された跡があることから、殺人事件と断定され、捜査が進められているが、
厄介な事に、その被害者の身元を確認できるものが何もないため、遅々として進展はないらしい。

 

「・・・というわけで、目撃者探しと、あたりに被害者の遺留品がないか、今から現場へ行くところなんだ。」

「・・・そうだったんですか。」

オレとしては、ちょっと興味引かれる思いで高木刑事の話を聞いていたが。

「・・・本当なら、工藤君にもついて来てもらえるとうれしいんだけど。
ま、そういうわけにもいかないよね、今はキッドの件で忙しいだろうから。」

と、先に釘を刺されてしまった。
ちょうど、その時、オレの背後から中森警部の大きな声が聞こえてきた。

「あ、ほら、工藤君!中森警部が呼んでるみたいだよ?僕はもう行くから・・・。」

じゃあ!と軽く手を上げて、高木刑事はオレの前から走り去る。
そんな彼の姿をオレも、がんばってください、なんて声をかけて見送ったりなどして。

 

再び前を向いた時、火の玉のような勢いで駆けて来る中森警部とバッチリ目が合った。

「工藤君〜〜〜〜ッッッ!!!暗号が解けただって?!早速中身を詳しく教えてくれたまえ!!!」

うわっ!!
あまりにアップで中森警部がそう怒鳴るものだから、思わずオレはたじろいでしまったが。

「・・・あ、あの・・・!きちんと説明しますから・・・。お、落ち着いてください、ね?警部。」

オレはそう言って苦笑を漏らした。

 

 

□       □       □

 

 

怪盗キッドの予告状では、なんと今夜8時に見城グループ会長が所有するエメラルドをいただくとそう書いてあった。

 

予告状の解読ができれば、話は早い。

中森警部率いる捜査2課の面々は、早速今晩の警備体制などについて入念な打ち合わせを始めた。

そして、それらがようやく人段落着いた頃、中森警部はガタンと席を立ち上がった。

「よし!見城会長のところに連絡は、いってるな?」

中森警部はコートを取ると、足早にフロアを出て行く。
オレもそれに付き添った。

「見城会長のところへ行かれるんですよね?ご一緒させてもらってもいいですか?」

「あ?ああ、構わんよ。ただ今は警備体制を報告しに行くだけだが。
本格的に警備を開始するのは、昼を回ってからだよ?」

中森警部の言葉にオレは黙って頷くと、彼と一緒にそのまま車に乗り込んだ。

 

 

そうして、訪れた見城グループ本社ビル。

受付ロビーに飾られている花は、今日もゴージャスだ。

昨日と同じように若い刑事が受付嬢に挨拶しに行くと、彼女もオレ達を覚えてくれていたようでにっこり微笑んでくれた。

そのまま、昨日通されたのと同じ応接室に案内されて、オレ達はしばらくお茶をすすりながら会長が現れるのを待った。

昨日は確か10分くらい待たされたけど、今日は5分と経たないうちにドアをノックする音が聞こえた。

ドアが開らかれたと同時に、見城会長を出迎えようと、中にいたオレ達は全員立ち上がる。

が、入ってきたのは見城氏ではなかった。

 

「・・・お待たせしました。」

言いながら、恭しく礼をするのは、見城氏とそう年は変わりなさそうな男性。

てっきり会長自らが現れるのかと思っていたオレ達は、思いっきり出鼻をくじかれて、立ち尽くす。

「・・・あ、えっと。貴方は?」

中森警部がそう訊ねると、彼は胸元から名刺を差し出しながらこう言った。

「私は、会長秘書を勤める、藤田と申します。」

差し出された名刺を受け取りながら、中森警部を含め、他のもう一人の刑事も続けて挨拶などを交わししばしの間、名刺交換タイムとなった。

 

「・・・本日は会長が社用で外しておりますので、ご用件は私が代わりに承りますが。」

ひととおり、挨拶がすんだ後、藤田さんはそう言った。

それを聞いて、中森警部の目がやや見開かれる。

「えっ?!先程、お電話した時には、きちんとご本人とお会いできるようにお約束したはずですが。」

「はい、大変申し訳ございません。会長は何分多忙なもので。
・・・・・・スケジュールの急な変更はよくあることでございまして・・・。」

・・・ま、そりゃそーだろーな。
オレは秘書の人の言い分はもっともだと思った。

しかし、中森警部は納得がいかないらしい。

「お忙しいのは分かりますが!怪盗キッドの件ですよ?!事の重要度を考えればこっちだって・・・」

やや憤慨した態度で警部がそう言うと、藤田さんはただただ申し訳ございません、と頭を下げた。

 

気の毒に。
別にこの人のせいじゃないもんな。

にしても。

普通に考えれば、時価数億の宝石がキッドに狙われてるなんてわかったら、仕事なんて放り出してそうな
ところだけど。

予告日当日の大事な警備体制の打ち合わせだぜ?

それを他人任せにできるなんて、どーもしっくりこねーんだよな・・・。

 

オレは、仕方なく秘書相手に警備について説明しだした中森警部を見ながら、そんな事を考えていた。

 

ふと、上着のポケットに突っ込んだ手に、何かが当たる。

あ!と、思って見ると、中には白い封筒。

そう、コレは昨日、見城氏のもと恋人だという辻さんから預ったものだった。

 

そうだ!コレを渡さなきゃいけなかったんだった・・・。

・・・と、言っても本人に会えてねーし。

 

プライベートなものだし、この秘書の人に託すより、直接渡した方がいいよな、やっぱ。

・・・仕方ない。じゃあまた後でということで・・・。

いくらなんでも、犯行予告間近なら、彼も・・・・いるよな?

 

一瞬、見城氏がこのまま姿を見せなかったらどうしようと思いつつ、もう一度その白い封筒をポケットに突っ込んだ。

 

 

□       □       □

 

 

キッドの犯行予告まで、あと20分。

 

キッドの獲物のエメラルドは、見城グループ本社ビルの特別展示室の中にあるということで37階建てのビル全体が警備対象となった。

オレは展示室の窓から、その下に見られる物々しい警備を見つめていた。

 

・・・さて。

そういえば、見城氏はどこ行った?

 

昼間の様子ではもしかして、現場に姿を見せないかもと、心配されていた見城会長は予告時間の1時間前には、しっかりと到着して午前中の非礼について詫びていた。

 

キッドが現れてからではバタバタするだろうから、できれば今のうちにコレを渡しておきたいんだけど。

オレはそう思ってポケットから白い封筒を取り出す。

・・・ヤベ!ずっとポケットに入れっぱなしだったから、ちょっとよれちゃった!!

オレは慌てて封筒を取り出し、手近な机の上で封筒の形を正そうと手で少し引っ張った。と、封筒の口が開き、中からハラリと何かが落ちてしまった。

うわっ、うわっ!!

オレはますます慌ててその落ちたものを拾おうと、かがんで机の下を覗き込む。
少し離れたところにソレは落ちていた。

あー、よかった!!汚したり、万一無くしたらシャレにならねーもんな!

そう思いながら、手を伸ばしてソレを掴む。

ソレは、一枚の写真だった。

そうだ。彼との思い出の写真だって、彼女も言ってたっけ・・・。

裏返ったままの写真を手に取ると、確かにそこには彼女と見城氏の名前、それと日付が書かれていた。

ふーん・・・と思いながら、写真をくるりと裏返したオレは思わず目を向いた。

「・・・なっ?!」

そこに映っていたのは、どこか観光地に行って撮ったであろう恋人同士の姿。

女性は昨日会った彼女、辻さんに間違いはなかった。
でも男性は?!

辻さんと親しげに腕を組んでいる男性の顔にオレは覚えはなかった。

慌ててもう一度、裏面を見る。

でもそこには間違いなく、『明彦』と見城氏の名前が書かれてあった。

 

・・・どういうことだっ?!

 

今、オレ達の目の前に姿を現している見城氏と、この写真の中にいる男性は明らかに別人だったのだ。

 

 

 

同じ頃、とあるビルの屋上に黒い人影が見えた。

夜空には、強い風に流されていく、いくつもの小さな雲。

やがて、それらが通り過ぎると、今まで隠れていた満月が姿を現した。

と、同時に先程の人影が眩いばかりの月光に照らされる。

 

月の光を浴びて、ますます白く映えるそのマントを強風がさらっていく。

シルクハットを僅かに引いて、俯いたその顔の右目のモノクルが怪しく輝いた。

 

「さて、行くか!」

口元に不敵な笑みを浮かべると、彼はそのまま空へと身を投げる。

次の瞬間、真っ白なグライダーが風を受けて、空高く舞い上がった。

 

 

□       □       □

 

 

その頃、オレはひたすらビル内を走り回って、見城氏を探したがどうにも見つからず、代わりに中森警部を呼び止めた。

「見城氏の身分証明書を確認したい?!・・・おいおい、工藤君。我々だってそんなことはとうにやっているよ?写真付きのものでばっちり確認済みだ。もちろん、今日ここにいる彼がキッドの変装でない事もね。」

「・・・写真・・・。写真の見城氏は間違いなく彼本人でしたか!?」

「?!何を言ってるんだ?当たり前じゃないか。」

何をいきなり言い出すんだと言わんばかりに、中森警部が首を傾げる。

「何だか知らんが、もうキッドの予告時間まで僅かだ。悪いが話はまた後で聞こう。」

中森警部はそれだけ言うと、足早にオレの前を通り過ぎていった。

 

・・・身分証明書の偽装工作なんて、やろうと思えばいくらだってできるんだ。

そう思いながら、オレは中森警部の背中を見送った。

 

オレは、この見城グループの後継ぎ問題について思い出してみる。

愛人の子供として生まれた見城氏は、ずっと海外で過ごし、その顔は日本では知られていなかった。
だから、本人かどうかなんてことは書類上でしか確認できなかったして。

適当な書類を揃えて、自分が『見城明彦』です、なんて言って現れたら、迎え入れるしかない。

 

でも、それがもし、本人じゃなかったら?

あの写真の人こそが本物の見城氏だったとしたら?

・・・本物の見城氏は、一体今どこにいるんだ?

そして、今、オレ達の目の前にいるのは、誰なんだ?

 

一瞬にして、オレの頭に嫌な予感が過ぎった。

もし、今いる見城氏が偽者だったとして、本人が大人しくしているとは思えない。
ということは、本人はもう消されてしまっているかも・・・。

 

すべてはまだオレの推測だけど。

 

まずは、確かめなきゃ話にならねーな!!

 

オレは素早く携帯を取り出すと、短縮番号を押した。

「あ、博士?!オレだけど、大至急調べてもらいたい事があるんだ!」

オレは手短に事情を説明すると、博士から心強い返事が返ってきた。

『分かった。じゃあまずは航空管理センターのデータから入国パスポートの情報を手に入れてみよう。すまんが、新一もその見城氏の写真をこっちに送ってくれんか?』

「わかった。メールですぐ送るから。」

オレはいったん携帯を切ると、まず社報に載っている見城氏の顔写真を携帯に内蔵されているモバイル・カメラで撮った。次に辻さんから預った写真に写っている男性の顔も同じようにして、携帯に取り込むと、そのまま博士のパソコンへと画像を送った。

よし!とりあえず、これでOK。
後は博士からの連絡を待って・・・・。

いや、待てよ?
もし、オレの予想が当たっていたとしたら、見城氏の本当の顔を知っている辻さんは・・・。

ふと、オレの頭を昨夜身元不明の女性の死体が発見されたという事件がかすめた。

 

・・・まさか!!

 

オレは再び携帯電話の番号をプッシュしようとしたその時、ビル内にけたたましい警報が鳴り響いた。

 

「キッドだ〜〜〜ッッ!!怪盗キッドが現れたぞ〜〜〜っっ!!」

 

なっにィ〜!!
あのバカ、このクソ忙しい時にっっ!!!

 

オレは、イラついて近くの壁をドカッ!と、1発蹴り上げると、そのまま携帯を握りしめエメラルドが眠る展示室へと走った。

 

展示室へ向かう途中、オレの目に入ったのは、警備員達が揃いも揃って眠らされている姿。

・・・あのヤロウっ!!

オレは舌打ちをしながら、展示室へと急いだ。

 

バァーン!と、勢い良く展示室のドアを開け放つ。

と、同時にものすごい煙で、オレの視界は真っ白になった。

・・・クソッ!!キッド・・・!!

オレが入り口のドアを開けたことにより、流れるように煙が部屋の外へ出て行く。
やがて、徐々に晴れてきた煙の向こうに立つ人影が見えた。

「キッドっっ!!!」

オレの叫びに奴は反応して、ゆっくりと振り返る。
やや肩越しに小さく振り返られただけなので、奴の表情まではわからなかった。

けど、キッドはまたすぐ前を向いて、エメラルドが入っているガラスケースの方を見やる。

・・・てめー、このヤロウ!無視してんじゃねーぞ!!

オレはズカズカと展示室に入り込む。

しかし、キッドは相変わらずオレに背を向けたままで、エメラルドにも手をかけようともしない。

・・・なんだ?どうした?

いつもなら、さっさとかっぱらってトンズラするだろうに、今夜のキッドは違っていた。
・・・なので、オレの方が声をかけてしまう。

「・・・何だよ?盗らないのか?」

いや、盗られても一応、困るんだけど。

すると、キッドはチッと舌打ちをして見せた。

「・・・盗るかよ、こんなニセモノ。」

キッドの言葉にオレは目を見開いた。

「 コレ、合成エメラルドだぜ? このオレをナメんのか?」

こんなもので自分の目をごまかせるのかと、言いたげな視線をキッドがオレによこす。

オレも慌ててガラスケースの中に目をやった。
鮮やかなグリーンはまさに本物のエメラルドの輝きだけど。

 

・・・確かに、昨日見たものに比べると若干その輝きが違うような・・・。

けど、イミテーションとすりかえるなんて話、聞いてないぞ。
っていうか、中森警部達だって、これを本物と思って本気で警備してたんだろうし・・・。

じゃあ、誰がすりかえたんだ?

・・・・って、一人しかいねーよな、たぶん。

 

と、その時、オレの携帯の着信メロディが響いた。

あ、博士だ!

オレはキッドをチラリと見やりながらも、携帯に出た。

「・・・あ、博士。・・・ああ、うん。そうか、やっぱり・・・。ああ、サンキュ。」

ふぅーと、溜息を漏らしながらオレは電話を切った。

とたんにキッドと目が合う。

「ふーん、あっちもこっちも忙しそうじゃん、名探偵?」

にやりと嫌な笑いをするキッドに、オレもジロリと睨みを効かした。

「・・・ほっとけ!お前こそ、これからどーすんだよ?まさか手ぶらで帰るのか?」

・・・なわけないよな、コイツの場合。

すると、キッドはにっこり笑った。

「とんでもない!狙った獲物を逃すわけにはいかないからね!」

 

・・・ああ、やっぱり・・・。

・・・もしかして、オレ、またコイツと一緒に行動しなきゃならねーのか?

 

うんざりしながら、キッドを見ると奴は呆れるくらいさわやかな笑顔で言った。

「・・・で、本物のエメラルドを持った見城会長はどこにいるのかな?名探偵?」

 

 

 

 

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キッド様、登場!
次回、二人で仲良く犯人を撃退だ!!

・・・って何かが違う。

2002.02.03

 


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