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2  オークション潜入
 

 

オークション開場が、とある雑居ビルの地下ホールで行われることまで
なんとか調べ上げたが、さすがのオレも進入経路には頭を悩ませた。

参加者には全員、パスが前もって配布されているらしく、当日参加は認めていないようだった。パスを手に入れる方法も考えたが、それは時間と労力がかかるため、諦めるしかなかった。

となると、残された道は奴らに気づかれないよう侵入するしかない。
あらかじめ、現場周辺の地図を頭に叩き込み、いくつかの経路はシュミレート済みだ。

灰原には詳しい事情を話してはいなかったけど、ここ数日のオレの行動を見て何か気づいたらしい。
再三、無茶はしないようにと言われてしまった。
オレってそんなに無鉄砲に見えるのかな?一応、これでもいろいろ考えてるつもりなんだけどな。

とはいえ、今日はオークション当日。
オレは計画どおり、今まさに開場へ乗り込もうとしていた。

裏口へ周って、見張り番の奴らに麻酔銃を打ち込む。
悲鳴をあげる間もなく倒れる奴等を尻目にドアに手をかけた。
悪いな。博士に頼んで薬を強化してもらってるから、当分起きられないと思うよ。

幾分緊張して中に忍び込んだが、幸い誰もいなかった。
オレは、足音を極力立てないように気をつけながら、地下へ向かう階段を探した。
非常階段を下っていくと、突き当たりに意味ありげな小さなドア。
厳重にロックされているだろうそのドアに手をかけたとたん、ギィッと扉が空いてしまいオレはかなりあせった。

あれ、何で鍵がかかってないんだ?

そう思ってふいっと中を覗き込んだ瞬間、オレが見たものは
暗がりの中でもはっきりと認識できる白い物体。

白い翼のように一見見えたそれは、マント。そしてシルクハット。

今時、そんなレトロな格好をしている奴なんてアイツの他に誰がいる!

「・・お、お前!!キッド!!」

オレは驚きのあまり、目を見開いて叫んでしまった。ただし小声で。

すると、キッドは振り向きざまにオレに銃を向けた。
シュッという空気を切り裂く微かな音と共に発射されたそれは、オレの右の袖ごと扉に深々と突き刺さった。

とっさのことでよけきれず、入り口のドアへ右手を縫い付けられたような状態になったオレは、それがトランプのカードによるものだとわかってちょっと安心した。

が、危ねぇーじゃねぇか!こんなもんでもナイフ並に切れるんだからよ。

オレは目をむいてキッドを見た。

シルクハットを目深にかぶっている上に、ややうつむいているため、キッドの顔は良く見えない。
が、ゆっくりとキッドは顔をあげた。
モノクルで半分隠されているけれど、こっちを見据える目の中に、見るものを威圧するような強い光があった。

「・・・これはこれは名探偵。妙なところでお会いしますね。」

け!相変わらず気取りやがって。

「・・・それはこっちの台詞だね。お前こそ、こんなとこで何をしている?」

オレは言いながらドアに突き刺さったままのカードを抜き、キッドに返した。
もちろんめいっぱい力を込めて、シルクハットあたりを狙わせてもらった。

ふん。お返しだ。
ところが奴はフイと見事によけやがった。
くっそう!

「何と言われましても・・・。私は怪盗ですから、狙ったものを手に入れるために。」

ああ、そうか。
地下で行われるオークションには、確かにこの怪盗が満足しそうな宝石が
ありそうだ。そいつを狙って来たわけか。

「どちらかというと、名探偵がここにいることの方が不自然ですが?」

そりゃそうだ。今回は事件がらみじゃなく、オレ個人の事情で動いてるわけだし。

「・・・いろいろと事情があんだよ、こっちにも。
今回はお前を追ってきたわけじゃないから、気にしないで勝手に消えてくれ。」

オレがそれだけ言うと、キッドは不思議そうにへぇ、とだけ返した。
そうなんだよ。オレは今、お前の相手をしてる暇はないんだからさ。

オレはキッドのわきを通り越して、その部屋の奥へ向かおうとした。
すると、オレの腕をキッドが掴んだ。

「どこへ?名探偵。」

なんだよ、オレは急いでんだ!邪魔すんな。

「・・・関係ねーだろ?」

イライラしながら、キッドの腕を振り解いて進もうとすると、
キッドはニタリと笑って言った。

「地下オークションは中止になった。」

「!なに・・?」

オレはキッドに掴みかかった。

「どういうことだ?!まさか、お前、何かしたのか?!」

キッドは不敵な笑みを浮かべたまま、オレを見下ろしていた。
コイツ!!
絶対、なんかやりやがったな?!

すると、部屋の奥から複数の足音がこちらに向かってくるのが聞こえた。
やばい!気づかれたか?
思わず後退しかけたところで、追い討ちをかけるように、今入ってきたドアの方からも人の気配がする。
はさまれたぞ!どうする?

オレは青ざめてキッドを見た。

「どうするんだ?」

「さぁ。オレ一人なら、その通気構にでも隠れることができる。
が、名探偵の分までは責任持てないな。」

なにぉ!!
オレは震えてキッドをにらんだ。

「きっさま、一人で隠れてみろ!奴らの前に引きずり出してやるからな!!」

するとキッドは平然と答えた。

「そういう根性は醜い。二人が共に身を滅ぼすよりは、一人でも助かる道を選ぶのが
得策というべきだろう?」

・・・確かに。
くっそう!このエセ紳士め!

そういってる間にどんどん足音が近づいてくる。
とりあえず、出口に近いドアの方を片付けて、脱出するしかないか。
オレは、薄暗い部屋を見渡し、何か手ごろな獲物を探した。

と、部屋の隅に積んであったペンキの缶を発見。
あ、これがいい。これにしよう。
オレは、ドアまでの距離を目で測り、ちょうどいい間合いに缶を並べていく。

キッドはそんなオレを不思議そうに眺めてたけど。
見てろよ。ちくしょう!
さっさと、どこにでも隠れればいいだろ?

なのに、キッドは通気構の方へは行く気配はなかった。

とはいえ、キッドのことを気にしてる余裕はない。
オレはしゃがんで、スニーカーの脇にあるスイッチを入れる。
コナンの時、博士が作ってくれたものと同等のものだ。
けど、今は子供じゃない。高校生のキック力なのだから力は倍増だ。

オレは息を殺して、奴らがドアを開けて踏み込んでくる瞬間を待つ。

そして、ドアが勢い良く開かれ、入ってきた男めがけてインステップで
ペンキの缶を蹴り飛ばし、見事命中させた。
続けざまにキックをお見まいし、一気に奴等を片付けた。

その様子にキッドが口笛を吹いて、感嘆の意を見せた。

どうだ。まいったか!
オレが得意げにキッドを振り返ったその時、奥のドアが開かれた。

直後、こめかみにバリっと熱いものを感じた。
頭が強くしびれ、急にお湯でもかけられたように暖かいものが顔面にしたたり落ちてきて、目にまでも流れ込んでくる。

慌ててぬぐったその手が、真っ赤でオレは驚いた。

・・・撃たれた?いや、かすっただけか。
まともに当たってたら死んでる。

頭がじんじん痛み出して、思考がまとまらない。

どうやって出口へ行く?
奴らに背中を向けて出口に向かったら、それこそ銃の標的になってしまう。

目に流れ込んできた血のせいで、あたりが赤く見え出して、冷や汗が一気に噴出すのを感じた。

すると、何を思ったか、キッドがオレを見て微かに笑い、
え?と思った時には、白いマントを翻して奴らの方へ飛び込んでいった。

そして、次の瞬間、目もくらむ閃光。
数発の銃声。

オレはキッドが閃光弾を使って、脱出の機会を作ったのだと一瞬で理解し、視界が奪われるほどの白い光の中、出口へ向かった。

オレの後ろにキッドの足音が聞こえて、オレはちょっと安心した。

そのまま、ビルを出て、追っ手が届かぬところまで、
一気に走る。
万が一の場合の逃走経路もすでに頭に叩き込んである。

とりあえず、安心できるところまで逃げることができて
なぜか、まだオレの後をついてくるキッドに気がつく。

なんで、オレと同じ方向へ逃げるんだよ?

「ついてくんなよ!」

「別について行ってるわけじゃない。たまたま方向が一緒なだけだ。」

・・・なんだよ。逃走経路まで一緒なのかよ?
オレは自分とキッドが同じ考えだったのに幾分ショックを受けながら
足を止めた。
もう、大丈夫だろう。追ってはこない。

すると、キッドはオレの顔を見て、目を細めて笑った。

「名探偵、ひでぇ顔。」

言われて、オレはおそらく血まみれだろう自分の顔を想像した。
頭の皮はつっぱっているから、ちょっとでも切れると異常に出血が多い。

「・・・見た目ほど大した傷じゃねぇよ。」

ふてぶてしそうにオレはキッドの方へ向き直ると、
奴の白いジャケットの右肩あたりが真っ赤になっているのに気が付いた。
オレが見ている間にも、その赤いシミはみるみる広がっていく。

「お、おい!キッド、お前撃たれたのか!」

オレがあせってそう聞いてるのに、本人は至って涼しい顔をして見せる。
そんなに出血していて、痛くないはずなのに、まるでなんでもないことのよう。

「じゃあな。名探偵。今日はとんだアクシデントだったぜ。」

なんて言いながら、グライダーの装備をし出した。
その怪我で飛んで帰るなんて正気か?!

「お前、そんな怪我なのに・・・!」

別に無理にとめる気はないけど、やめた方がいいんじゃないのか?
途中で落ちたら、マジで死ぬぞ。
一応、これでも心配してやってるのに、うつむいたままシカトするので
むかついて、腕を引いてみた。

すると、そのままキッドの体はずるりとオレの方へ崩れてきて
オレはとっさのことにふんばりが利かず、キッド共々倒れこんでしまった。

・・・な、なんだよ。コイツ。
気絶してる。さっきまで、全然平気な面してたくせに。

完全に気を失っている白い怪盗の体は鉛のように重く、
オレは自分の出血も手伝ってか、とてもコイツをかついで帰る自信はなかった。

おもむろに胸元から携帯を取り出し、短縮ボタンをプッシュした。

「あ、博士?オレだけど。悪いけど迎えにきてくんない?」

 

 

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