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3  手負いのキッド
 

 

「・・・つくづく面倒なことを背負い込む人ね。」

血まみれのオレを見るや否や、灰原は大きなため息と共に冷たく言い放った。

心配どころか、呆れている・・・か。やっぱり。
オレは彼女の少女らしからぬ冷めた視線が、いっそう冷えているのを感じた。

まぁ、とにかく、早く手当てをという、博士の言葉に
オレは、気を失っているキッドを放り出すわけにもいかず、とりあえず、奴を先に車の後部座席に押し込んでから、自分も滑り込む。

そして、オレたちは一目のつく大通りまで一気に飛ばした。

あとわずかで家に到着と言うところで、灰原は博士に車をオレの家のガレージへつけるよう指示する。
オレはてっきり阿笠邸へ行くものだとばかり思っていたから、ちょっと面を食らった。

「なんでだよ?手当てするなら博士の家の方がいろいろ揃ってるだろう?」

「あら、あなたが拾ったんでしょ?」

・・・そうだけど。別に好きで拾ったわけじゃねーよ。

灰原の指示どおり、博士がオレの家に車を着けると、灰原は手当ての道具を取りにいったん阿笠邸へ戻る。
その間、仕方無しにオレは博士と二人がかりで、なんとかキッドを2Fの客間まで運んだ。

オレのこめかみの傷は、かなり大げさに出血をしたものの、実際大したことは無く
簡単な消毒と、化膿止めをしてガーゼで保護して完了した。

で、問題はキッドだ。
コイツはかすっただけのオレとは違って、ほんとに撃たれてる。
幸い、弾は貫通しているようだけど。

消毒の匂いがするガーゼの上に、手際よく灰原が手術道具を並べていく。

「工藤君、彼の上着を脱がしておいてくれる?」

「あ、ああ。」

キッドの白いジャケットは、もう右半分真っ赤に染まっていた。
オレは絞れそうなほど血を含んで重くなったジャケットをなんとか引き剥がすとふと、奴の右半分の顔を隠しているモノクルに目が行った。

そういえば、こんな近くでキッドの顔を見るのは初めてだ。
・・・へぇ。コイツ、オレと年なんてそう変わらないんじゃねぇの?

オレはふいにそのモノクルに手を伸ばした。

その瞬間。

キッドの目がカッと見開き、オレの手を、パンっと音を立てて払った。

一気に覚醒したキッドは、すぐに上体を起こし、ベットから起き上がろうとして
僅かに顔が苦痛に歪む。
動いたせいで、また傷口から血が溢れ、ベットを濡らした。

するどい眼差しでオレを射る。
それは、警戒心が剥き出しで、全身毛を逆立てて敵を威嚇する獣の目だ。
あまりの迫力にオレも、灰原も、博士も固まったまま動けない。

ああ、手負いの獣って、まさにこういうのを言うんだろうな。

キッドはそのまま、ユラリ、と立ち上がって、部屋から出て行こうとする。

「・・・ムリよ!大人しくしていなさい!」

キッドは静止を促す冷静な灰原の声もまるで無視して、ドアの方へ
足を引きずりながら向かう。

多量の出血のせいで、顔色は悪いなんてもんじゃない。
そんな体で動き回ったって、どうせどこかで倒れるのがオチだ。

オレは素早く麻酔銃を奴めがけて発射した。
ほら、よけることもできないだろ?
そんなんじゃ、ヤバイって。

キッドの体はすぐに弛緩し、ゆっくり崩れるように倒れていった。

「こんなに出血していて、まだ動けるなんて、大したものね・・・」

倒れたキッドを再びベットへ運ぼうと抱き起こした時、カシャン、と音を立ててモノクルが床に落ちた。
そして、オレが見たものは、よく見知った顔だった。

「こ、これは・・・・!新一とそっくりじゃないか!」

博士が驚いて叫ぶ。

ああ、そうだ。コイツ、オレに似てる。
けど、ちょっと造作が似てるだけだろ?雰囲気なんて全然違うし。

・・・しかも、これ、本物の素顔なのか?

「・・・工藤君、早くベットに運んでくれる?」

オレがマジマジキッドの顔を覗き込んでいると、灰原がじれったそうに言った。
どうやら、灰原はキッドの顔なんてどうでもいいらしい。

手当てのため、灰原がキッドの服を脱がしていく。
傷はかなり痛々しいものだったが、それよりもキッドの体にはいくつもの
傷跡があって、オレは目を見張った。
それは銃創であったり、または鋭利な刃物で切りつけられたようなものであったり。

オレが知る限り、怪盗キッドは人騒がせな泥棒でしかない。
単なる愉快犯で、平成のアルセーヌ・ルパンだか、なんだか知らないが
華麗なマジック・ショーのような犯行。

奴自身が他人に危害を加えないというのは、誰が言ったか知らないが有名な話だ。
そんな本人がこんなに傷だらけの体っていうのは、どういうんだ?

所詮、犯罪者だし、宝石を盗む以外にもかなりやばいことをしてる・・・・
っていうことか。おそらく。

オレが固まっていると、灰原がオレに視線を送った。

「これから、縫合するわ。悪いけど、気が散るからあなたは出てってくれる?」

オレは部屋から追い出されたので、とりあえず、自分の部屋に戻った。
それから、ノートパソコンとディスクを何回か持って、リビングのソファに掛ける。
例のオークションに関するデータを検索しながら、キッドの治療が終わるのを待つことにした。

データを洗い出しながらわかったのは、オークションに関する情報がすべて削除されていたということ。
キッドの言うとおり、オークションが中止になったのかも、今となっては、確かめる術は何もなかった。

くそ!
また振り出しに戻っちまったじゃねーか。

オレは、再び新たな有力情報を探すため、キーボードをたたく。

 

東の空が白くなりだしたころ、少しだるそうに灰原が部屋から出てきた。

「・・・とりあえず、傷はふさいだわ。」

オレはやや緊張した面持ちでうなずいてみせた。

「本当なら輸血したいところだけど、さすがに血液までは用意してないから
充分に水分を取らせるようにして。
それから、銃の傷は発熱しやすいから、解熱剤と・・・あと、鎮痛剤も置いていくわ」

灰原は、薬をオレに手渡そうとして、一瞬手を止める。

「・・・彼、薬が効きにくい体質みたい。あなたが撃った麻酔も途中で切れるところだったわ。」

「ウソだろ?、余裕で12時間はぐっすりなはずだぜ。」

「つまりね、麻酔がどうというわけではなくて、薬全般、あまり効かないのよ。極端な話、普通に毒を盛ってもきっと死なないわよ?彼。」

要するに、薬品に対しても耐性を持っているってことか。
・・・ったく、大したもんだね。

「・・・とにかく、人並みはずれた体力をお持ちのようだから、心配は不要ね。じゃあ、私はこれで失礼させてもらうわ。」

疲れた、と、こぼす灰原と博士を、オレは玄関まで見送った。

「・・・ほんとにすまなかったな。いろいろ迷惑掛けて。」

「そう思うなら、次回からもう少し自重してほしいものね。」

オレは苦笑しながら、灰原と博士に手を振った。

 

灰原たちが帰った後、オレは一気に脱力し、激しい眠気に襲われて
自分のベットに倒れこんだ。

普段寝つきのよい方ではないにもかかわらず、あっというまに意識は深い闇に飲み込まれていった。

 

 

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