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23  新たな予告状
 

 

あの日、キッド(いや、あの時は黒羽快斗としてだけど)がオレの家に現れてから、既に二週間以上経過していた。

 

その間、特に変わったことなど無く。

アイツが灰原に接近してくる事も無かったし、こないだのようにオレの家に無断で押し入ることも無かった。

『怪盗キッド』としても大人しくしているようで、ヤツの話はパッタリ聞かなかった。

 

オレはオレで、事件に追われる日が続いていたりしていて。

アイツの正体のこととか、その目的に秘められているものとか、それについてあまり考える時間もなかったのだが。

 

・・・それでも、アイツのことが。

心のどこかでいつも引っかかっているような、そんな感覚を覚えていた。

 

 

そんなことを思いながら。

オレは視線をひたすらパソコンに向けたまま、右手でマウスをクリックし続けていた。

お呼びのかかった事件から、さっき解放されたばかりのオレは、そのまま家には帰らずに捜査一課の面々とともに警視庁に戻ってきたところで。

ちょっと調べモノがあるとか何とか言って、資料室にこうしてこもってるワケなんだけど。

 

・・・・いねーな・・・・。

やっぱいるワケねーか、こんなトコに・・・。

 

 

「犯罪者リストなんか見て、何か探してるのかい?」

「・・・・ええ、まぁ。」

 

次々に画面に登場する悪人面を集中してみていたため、背後からした声につい何も考えずに返してしまったが。

・・・・高木刑事?!

オレが慌てて声の主を振り返ると、高木刑事が後ろからパソコンを一緒に覗いていた。

・・・・ヤベ。 無断で見てたんだった・・・・。

少しバツの悪そうな笑いを浮かべてオレが高木刑事を見つめると、彼もにっこりする。

 

「工藤君、僕のパスワード勝手に使ってるでしょ?」

 

・・・・・・・・あはは。

とりあえず、オレは素直に謝るとプログラムを終了させた。

 

「何か事件絡み?」

「・・・・か、どうかはまだわかりませんが。」

オレの返答に、高木刑事はよくわからない顔をして?と首を傾げる。

 

そりゃそうだろう。

オレにだって、実際のところよくわからない。

 

ただ、こないだキッドが持ってきた写真の男の手がかりが何かないかと思って。

アイツが灰原に見せたからには、組織との関連が疑わしいと睨んでいるワケだろうし。

・・・・けど、本当に組織の人間だった場合、警視庁のデータなんかにあるわけはないか。

 

オレはガタンと椅子から立ち上がると、もう一度高木刑事にお詫びを言った。

そのまま一緒に資料室を出る。

 

「工藤君、夕飯は? 僕達は、今ラーメンでも取ろうって話してたところなんだよ。最近、目暮警部のお気に入りのところがあってね。良ければ、工藤君の分も取るけど?」

高木刑事のそのありがたい申し出にオレがにっこり笑ったところで、背中から「おーい!」と声をかけられた。

振り返ると、息を切らして一人の刑事らしい人がこっちへ向ってくる。

 

えーっと・・。あの人は確か捜査2課の・・・・。

 

「工藤君!!工藤君!!!ちょっとまだ、帰らないで!!」

「何かあったんですか?」

足を止めたオレ達に向けて、彼は走りながら胸元から何やらペーパーを取り出した。

 

「キッドだよ!!怪盗キッドからの予告状だ!!!」

 

 

 

□ ■ □       □ ■ □       □ ■ □

 

 

 

「・・・で、中森警部はどちらに?」

「今、実際にその予告状を受け取った宝石商のご本人さんと2階の応接でご対面中だよ。」

オレが予告状のコピーに目を通しながら何気なく聞いた質問に、2課の刑事の返してきた答えは少し興味をそそった。

「対面中? 今、いらしているんですか?」

「ああ、本人がさっき直接予告状持参で来たんだよ。」

 

・・・・ふーん。

まさか、依頼人が例の写真の男と関係あるとは限らないけど、一応、顔とか見ておくか。

 

オレはそう思うと、くるっと回れ右をする。

 

「え?工藤君?!」

「中森警部は2階の応接室ですよね?」

 

そのままエレベーターホールまで走りこんで、オレは2階へと向った。

ま、毎度のことだけど、暗号解読の代わりに今回も捜査に混ぜてもらうよう、中森警部に頼んでおこう。

 

そうして、オレが応接室の前まで来た時、ちょうどドアが開いて中森警部らが出てきたところだった。

 

「中森警部!」

「ああ、工藤君!」

 

警部に続いて、二人の男性が中から出てくる。

彼らは、オレの顔を少し訝しげに見つめてきた。

 

「調度いい。ご紹介しておきましょう。ご存知かもしれませんが、彼が工藤 新一君。高校生探偵の・・・。キッドの予告状の暗号解読に関しては、いつも少しばかり助力をいただいておりましてなぁ!」

 

・・・・少しばかり???

オレはチロリと中森警部を見るが、彼はオレの視線にはまったく気づかないで、ガハハと笑っている。

 

「工藤君、こちらは小日向 賢治(こびなた けんじ)さん。青山で宝石商をやっていらっしゃるそうだ。で、こちらの方が秘書の井上 秀和(いのうえ ひでかず)さんだ。」

警部がそう紹介すると、二人ともオレに小さく頭を下げてくれた。

オレも同じ様に会釈して返すが。

目線だけは、彼らの顔をじっくりと見つめて。

 

宝石商の小日向という人は、割と小柄な上に痩せ型で、顔色も心なし良くは無いように思えた。

まぁキッドの予告状を受け取って、憂鬱なためかもしれないけど。

で、秘書の井上という人も背だけは高いけど、ただひょろ長いだけでガタイが良いとは言いがたく、なんとも気弱な二人組みだった。

 

けど。

 

・・・・やっぱり違うな。

 

彼らの顔は、キッドの見せた写真の男とは似ても似つかない。

 

今回は、こないだの写真とは別件なんだろうか?

それとも、まだ例の男が姿を現していないだけか、もしくはこんな表立ったところには出てこないヤツか・・・・。

・・・・ま、組織の人間だとしたら、そうそう顔なんて見せるはずもないか。

 

オレは気を取り直して、彼らににっこり笑って見せた。

「それで・・・。キッドの予告状は今日、受け取られたんですか?」

「え、ええ。 さっきです! 見つけたその足でいても立ってもいられなくて、すぐこちらに参りました。」

秘書の井上さんが幾分、青ざめた顔でそう言う。

それに小日向さんが続いた。

「今回、キッドの目をつけてきたアレキサンドライトは、先日私がブラジルから買い付けてきたばかりのもので・・・。もし、これを盗られてしまったら、私はどうしたらいいのか・・・。」

今にも頭を抱えてしまいそうなくらい、悲痛な面持ちでそう訴えるが。

 

ま、たとえ一度、キッドに奪われたとしても、『パンドラ』じゃなければ、大概は後で返ってくると思いますよ?

・・・とは、言えねーしなぁ・・・。

 

どうも、オレには宝石を死守するという意識が欠けてるのがいけない。

 

オレが苦笑している横で、中森警部が相変わらずな自信満々な笑みを浮かべて『お任せください!』などと胸を叩いている。

・・・・・いいけどね、別に。

 

そうして。

その今にも倒れてしまいそうなくらい気弱になっている小日向さん達を、オレと中森警部は並んで見送ったのだった。

 

 

 

□ ■ □       □ ■ □       □ ■ □

 

 

 

「・・・・宝石商の小日向?」

ソファに腰掛け、雑誌を読みふけっていた灰原は小さく顔を上げた。

 

警視庁から帰ったその足で、阿笠邸に立ち寄ったオレはコーヒーなどご馳走になっていたのだが。

 

「・・・・そんな人物、知らないけど? それが何?」

ややその細い眉を寄せて、灰原がオレの顔を見る。

オレはコーヒーを一口、口に運んでから、いや、実はさ、と事情を軽く話し始めた。

 

「今回の件が、ヤツがこないだ持ってきた写真の男と関係あるかは、まだわかんねーんだけど・・・。」

「・・・・結局、また首を突っ込むつもりなのね?」

やや呆れた風に言ってのける灰原を、オレは睨んだ。

「仕方ねーだろ? 組織との関連性がないとは言い切れねーんだから!!」

 

オレがそう言うと、灰原の冷静な目がすっと細められる。

 

 

「・・・貴方、この先もこうやって、ずっと彼に関わっていくつもり?」

 

 

灰原の言葉が、一瞬オレの胸に突き刺さる。

 

 

・・・・いや、オレは。

別にそんなこと、考えてたワケじゃないけど。

ただ、アイツが絡むと組織に関わる事も多いし・・・・・。

そりゃ、アイツが抱えてる何かが気にならないこともないけど、だからってずっとアイツと関わっていくなんて。

 

・・・・そんな事、特に決めたわけじゃないぞ???

 

そうだ!

どちらかと言えば、関わりたくない人種だし!!

ほんと、ムカツク奴だし、言動とか。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・その、こ、行動も。

 

瞬間、奴に唇を奪われた時のことが、頭にフラッシュバックする。

 

・・・・ヤバイ。

思い出したくない事を思い出した。

 

 

やや頭痛がしてきたような気がしてオレがうなだれていると、灰原がふぅ〜と溜息を漏らした。

 

「・・・一応、言っておくけど。彼は危険よ? ・・・・いろいろな意味でね。」

「・・・わかってるよ。」

 

組織はキッドを邪魔者として、消そうとしている。

他にも、奴を狙う良からぬ輩はたくさんいるのはもう充分に知ってることだ。

奴に接近すれば、こっちだって身に危険が及ぶことももちろん出てくるってことだろう?!

そのくらい、覚悟はできてるよ。

 

そう思って、プイと灰原からオレは視線を逸らしたが。

 

 

「・・・・・・・本当にわかっているのかしら?」

 

灰原が小さく呟いたその言葉は、オレの耳にまでは届かなかった。

 

 

 

 

 

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 久々の更新・・・。
続き物なのに、ずいぶん間が空いてしまった・・・。

ああ、年内に終わらせられるかなぁ?
不安だ・・・。

2002.12.23

 


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