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6  奪われた『TRUE BLUE』
 

 

 

「これが、インド最大のサファイア 『 TRUE BULE 』 だよ。」

 

展示室の中央にあるガラスケースを前にして、目暮警部は得意げに指し示した。

へぇ・・・。さすが最大というだけあって、でっかいサファイアだな。
これが今回のキッドの獲物ってわけか。

オレは、透明なケースの向こうにある、その嘘みたいに大きな宝石を
覗き込んだ。

すると警備員を掻き分けて、ものすごい勢いで恰幅のいい男がやってきた。

「目暮警部!!ここは関係者以外立ち入り禁止のはず!!
勝手に民間人を近づけてもらっては困ります!!」

ん?民間人ってオレのことか?
オレは自分を睨みつけている男をチラリと見やった。

「な、中森警部、彼は工藤新一君だよ。ほら今回の暗号を解読してもらった高校生探偵の。君も知っているだろ?迷宮なしのこの名探偵を。」

あ、ありがとう・・・。目暮警部。
けど、そのフレーズなんか妙にはずかしーんだけど。

「もちろん存じています。ですが、彼は所詮、警察関係者ではない。部外者は捜査の邪魔になります。」

「だが、せっかく暗号を解読してもらったし、工藤君には警備についても助言をもらおうと・・・・」

目暮警部がそう言いかけるや否や、中森警部はものすごい剣幕でまくし立てた。

「無用です!!怪盗キッドのことなら私が一番よくわかっています。
奴とのつきあいが一番長いのも私なのですから!!
今度という今度こそ、絶対に捕まえてみせます!!」

すっごい力の入れようだな・・・。
大丈夫か?この人・・・。

そのあまりの勢いにさすがの目暮警部も後ずさりしてしまっていた。

「すまんね。工藤君、彼は中森警部といって、怪盗キッド専任なんだよ。見てのとおり、現場は彼が仕切るようになっているんで、私もあまり強い事は言えんのだが・・・。」

目暮警部は申し訳なさそうにそう言って来たけど、別にオレは気にしていなかった。そりゃ、警備に関しては、いろいろ注文もつけたいところもあったけど、今日はキッドを捕まえにきたわけじゃないし。
ってそんなこと言ったら、不謹慎だけど。

「どうぞ、お気になさらず、警部。」

オレはそれだけ告げると、展示室を後にした。
背中で目暮警部が、どこへ行くのか、とか言ってたような気がしたけど、とりあえず、笑顔で手を振るだけにして。

 

キッドが予告を出したあの「TRUE BLUE」を、組織が狙っているとしたらこんな警備の中、わざわざここへ盗みに来るとは考えにくい。

と、なると・・・。
キッドが盗み出した後、横取りするというのが常套手段というところか・・・。

オレはキッドの予告状をふと思い出した。
暗号化された文章の中に、ご丁寧にも逃走ルートまで記してあったことを。

要するにそこへ行けばいいのだ。
そこへ行けば、キッドを追う組織の奴らと遭遇できるかもしれないのだから!!

 

キッドの犯行予告時間より、20分経過。

オレは犯行現場の美術館より少し離れた雑居ビルの屋上にいた。

時間的にはそろそろだと思う。奴が現れるのは。
別に今のところ、他に怪しい奴もいないよな。

オレは辺りを見渡して、キッドよりむしろ、現れるかもしれない組織の連中に神経を尖らせた。

 

と、突然、ふわりと風が舞い、オレが慌てて振り仰ぐと、
真っ白なグライダーが頭上を通過した。

キッド・・・!!

そして、カシャン、という軽い金属音とともに、グライダーはあっという間に風になびくマントに変形し、奴は音も無く降りたった。

「さすがは名探偵。ここに来れたっていうことは、きちんと暗号が
解けたっていうことかな?」

シルクハットのつばを少しだけ上に向けて、キッドはいつもの気障ったらしい笑みを浮かべる。

「わざわざ予告状に、逃走経路まで書いてくる奴の気が知れないね。いくらなんでも警察をナメすぎなんじゃねーの?」

今度はオレの方が、奴をせせら笑うように言い返してやると、
キッドは両手を広げて、おどけてみせる。

「そんなことないぜ。今回の暗号は、いつもよりチョット、ハイレベルにしてみたから、もし解けるとしても、名探偵くらいだろうと踏んでいただけ。」

ハイレベルだと?
ヤロー、どうりで解読に時間がかかったはずだぜ!チクショー!!

「けど、オレが解いて、警察に教えたら同じじゃねーかよ。」

「でも、名探偵は誰にも教えなかったんだろう?」

ぐっ!・・・それは・・・そのとおりなんだけど。

「つまり、そういうこと。最初から、名探偵がここに一人で来る事はお見通しってね!」

なんて言いながら、闇を背にしてウインクしてみせるキッド。
世の女どもなら、きっと悲鳴を上げて卒倒しそうなところだろうけど
あいにくと、オレは男だ。

「・・・ところで、今日の獲物はどうだったんだよ?」

オレはため息をつきながら、キッドを窺う。
まぁ、ここにいるという時点で、今日の奴の仕事も順調に終えたと
いうことなんだろうけど。

するとキッドは、すっと目を細めて笑い、
胸元から蒼く輝く大きなサファイアを取り出した。

『TRUE BLUE』 だ!!

「それがお前の手に入れたい宝石だったのか?」

オレのその問いに、キッドは答えなかった。
代わりに夜空を仰ぐ。

「・・・月が隠れてしまったな・・・。」

キッドのその呟きにオレもつられて空を仰いだ。
そういえば、さっきまで出ていた月が、今は雲に隠れてしまっている。
けど、月が何だって言うんだ?

オレが再びキッドに問いただそうとした瞬間、
シュンっという空気を切り裂く音とともに、キッドの白いシルクハットが
何かに弾かれて、落ちた!!

「ふせろ!!」

キッドはそう言って、自分もすばやく身をかがめる。
オレも低く姿勢を保ちながら、発砲してきた方角を確かめた。
すると、少し離れたビルに黒い人影が見えた。

組織の奴らか?!

オレはギリっと奥歯を噛んだ。

「組織の連中か?」

「さてね。例の宝石を追っている組織は一つじゃないからな。」

キッドは言いながら、下に転がっていたシルクハットを拾い、軽く叩いた後で、目深にかぶり直すと、フェンスに足をかける。
今にも屋上から飛び降りようとするキッドに、オレは慌てて声をかけた。

「おい!どこ行くんだよ?!」

「どこって・・・。お客さんには、挨拶しなくちゃ、だろ?」

キッドは振り向き様、奴特有の不敵な笑みを浮かべた。
瞬間、飛び出そうとした白いマントのすそをオレはグイっと捕まえる。

「オレも行く!!」

捕まえられた反動でややそっくり返りながらも、体勢を立て直したキッドは、呆れたようにオレを振り返った。

「・・・あのね、悪いけど、見ての通り、このグライダーは一人使用なわけ。名探偵も追っかけたいなら、どうぞ、自力でね!
ああ、いつまでもここにいると狙撃されるぜ?  んじゃな、名探偵!!」

それだけ言うと、キッドはバっと空を舞い降りて行った。
右に左に旋回していくグライダーは、夜目にはまるで白い紙飛行機の
ようにも見える。旋回しているのは、きっと器用にも銃弾を避けているからなのだろう。

はぁ〜・・・

オレはため息をついた。
今から走って、あっちのビルに行ってもどうせ間に合わねーんだろうな。ああ、オレにもグライダーがあったらな・・・。

くだらない考えだと思いつつ、確かにこれ以上ここにいるのは危険なので非常階段のドアの方へ向かおうとしたオレの目の端に
キラリ、と、光るものが映った。

さっき、発砲してきたビルとは違う方角だ。
他にもいたのか?!

慌ててキッドが向かった方向を振り返ると、奴はまっすぐにさっき狙撃してきたビルに向かって飛んでいる。
おそらく、気づいていない!

「・・・キッド!!」

直後、キッドのグライダーがバランスを崩す。
そして、そのまま反転しながら、ビルの谷間に落下していくのが見えた。

撃たれたんだ!!

「くそっ!」

オレは舌打ちをして、急いで非常階段を駆け下り、奴が落下したであろう現場に向かった。

 

 

この辺りだと思うんだけど・・・。

オレは表通りからは死角となるビルの路地裏に、キッドの姿を探した。
が、奴はどこにもいない。

もしかして組織の連中に捕まったんだろうか?

そう思ったとき、真っ暗な夜道の先に何か光るものが落ちていた。
何だ?

『TRUE BLUE』だ!

オレは急いでそれを拾い上げた。
間違いなくそれは、さっきキッドが盗んだ例の宝石だった。
落下した時に、ショックで落ちたのか・・・。
と、すると。
やはり、キッドはこの近くに・・・。

そう思った瞬間!!
弾丸がオレの頬を掠めた!!

びっくりして振り返ると、路地裏から一つの影がぬっと現れるところだった。
それは、びっくりするほど大柄な男で、顔は帽子とサングラスで隠れていてよく見えなかったけど、黒づくめの服を着ていた。

組織のやつらかも知れない!!

オレは背筋に冷たいものを感じた。

 

「大人しく、『パンドラ』を渡してもらおうか?」

男は銃口をオレに向けたまま、静かに口を開いた。

え? 『パンドラ』?
これは、『TRUE BLUE』じゃないのか?

宝石の名前が違ったけど、まぁ、欲しがってるのは今、オレが手にしてるコレに間違いはないよな・・・。
でも、何だろう?『パンドラ』って。

オレは自分の手の中にある、蒼く輝くサファイアを一瞬見やってから、
そいつを睨みつけてやった。

「嫌だ、と、言ったら?」

「ここでお前の一生が終わるだけだ。」

男はにやりといやらしい笑いを浮かべ、オレの鼻先に銃口を押し付けた。
すると、背後からもう一人男が現れた。

「兄貴!そのガキ、さっきキッドと一緒に屋上にいた奴ですぜ!!」

「ほう・・・。貴様、キッドの仲間か。」

げっ!!ちげーよ!!
あんな気障なコソドロと一緒にすんな!!

「キッドはどこだ?」

「知らねーよ。」

オレをキッドの仲間だと決め付けてかかるので、ムカムカしながらそう答えた。

ともかく、この状況をなんとかしないとな。
こんなところで大人しく殺されてたまるか!
しかも、キッドの仲間と誤解されたままじゃ、なおさらだ。

オレは銃口を突きつけてる男に、両手を挙げて降参のポーズをしてみせた。

「・・・わかったよ。この宝石は渡すからさ。
でも、言っとくけど、オレはキッドの仲間じゃないぜ?」

そう言って、オレは『TRUE BLUE』をポンと高く投げた。
すると、奴らは驚いて上を見上げる。
オレが狙ったのはその一瞬の隙!!

左に体重を移しながら、腰の力で一気に蹴り上げる。
首の付け根に当たれば、コレは立派なまわし蹴り。

ただ、心配なのは、こんな大男を一撃で倒せるかっていうことなんだけど、とりあえずは吹っ飛ばせるだろうから、もし起き上がってきたら、麻酔銃を打ち込もう。

それで、右ひざを曲げ、腿をできるだけ胸に近寄せておいてから、
思い切って体を一気に左側に倒し、右足の甲を目の前の男の首筋めがけてぶち込んだ。
続けざまに、その反動を利用して、残りの男も蹴り倒す。

男達は声も無く倒れ、オレはほっと息をついた。

やった。上手くいったぞ!
あ!!やべ!!『TRUE BLUE』は、どこいった?

オレはさっき自分で投げた宝石の行方を探した。
2,3歩先にキラキラ輝くそれを見つけて、屈んで拾おうとした瞬間、今まで何の気配すらなかったオレの背後から、低い声がした。

「お遊びは終わりだ。小僧・・・!」

げ!まだ仲間がいやがったのか!!

オレは振り向きざま、足を上げてその男を蹴り飛ばそうとした。
が、男はひょいと顔を背け、紙一重でオレの蹴りをよけた。
オレは信じられない思いで、目をむいた。

だって、オレ、蹴りにはちょっとした自信がある。
ボールなら200キロくらいは出せるんだぜ。なのに、それを軽々よけるなんて。

オレは素早く右足に体重移動させ、今度は左足を使って蹴り上げようとした。
すると奴は、またもふっと顔をそらせ、本当に僅かな距離でオレの蹴りをかわしながら直後、脇からオレの頭を銃で殴りつけた。

オレは、くらっとして一瞬、意識が遠のき、思わず膝をつくと、背中を容赦なく叩きのめされ、地面に屈みこまずにはいられなかった。

黒い靴が歩み寄って、オレの顎につま先をグイ、とかけた。

痛ぇ・・・。

オレは口で大きく息をしながら、目だけでそいつを仰いだ。

「ほう・・・。いい目をしている。今、ここで殺してしまうには惜しいな。」

低く楽しそうに笑いながら、男はオレを壁際に立たせ、今度は鳩尾に強烈な蹴りが入った。

激しい痛みと気持ち悪さで、オレは男を睨みつけたけど、
男の姿がぼうっと霞み、色を失って黒い影のように見えた。
輪郭が陽炎のように揺れて、徐々にぼやけていき、自分の意識が遠くなっていくのがわかった。

くっそぉ・・・

そのうち男の姿が二重になり、三重になり、オレを笑うその声すら、しだいに遠くかすかになっていくのを聞きながら、オレは意識を失った。

 

 

 


新シリーズ第2話!
ここまで書いて、ふと気づいた。
私、もしかして、いや、もしかしなくてもアクション好き・・・?
まぁ、いいか。
さあ、囚われの新一さま。次回はどうなるのでしょう?
そして、キッドは?

ちなみに「TRUE BLUE」とは、ご存知LUNA SEAの歌から拝借。
ファンの方ごめんなさい。
いやぁ、宝石の名前を考える脳が無くて・・・

 

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