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NOVEL

Happy Barthday   

 

翌日、オレが目を覚ましたのはもう昼近くのころだった。
カーテンから覗く空は快晴。
まさに行楽日和とか言うやつだ。

幾分まだ睡眠不足の目をこすって、とりあえずは新聞を片手に遅めの
朝食を取る。
何気なくつけたTVでは、連休初日、行楽地へ向かう人々の混雑振り
が、さっそく話題で取り上げられていた。
高速道路の何十キロ渋滞なって言って、テールランブの列が
果てしなく続いている風景なんかが映し出されている。

ほらね、言わんこっちゃない。
そういや、蘭たちは那須まで電車で行くって言ってたけど、
博士達は白樺湖までマイカーだろうから、今ごろは渋滞に
はまってるんだろうな・・・・
ご愁傷様。

一応同情はしてみたものの、本人達が望んで出かけたのだから
オレがあれこれ心配する事もないか。
さてと。

食事を終えたオレは、今日一日どう過ごすか考えてみる。
ああ、自分のための時間って大切だよな、やっぱ。

とりあえずは、昨日の読みかけの小説を読んじまうか。
後の事はそれから考えるとしよう。
オレはリビングのソファに深く腰掛け、再び小説を手にした。

が、しばらくしてなんだか欠伸が止まらない。
窓からの暖かい日差しが妙に気持ちよくて、小さな活字がふいに
見えなくなるような錯覚を何度か覚える。
昨夜の寝不足も手伝ってか、オレは睡魔に襲われた。

 

あれ・・・?
なんか左の頬が引っ張られてるような気が・・・。

「・・・ふぇ?」

「ははは、おはよ、新一。」

気が付くと、快斗の顔が近くにあって、奴が頬を軽くつねっていた。
どうやらうとうとしてしまったらしい。

「・・・快斗、てめー、また勝手に入り込みやがって。」

ったく。どーせ、言っても無駄だろうけど。
コイツの不法侵入にもはっきり言ってもう慣れた。

「何か用かよ?」

オレは欠伸を噛み殺しながら、ソファの下に落ちてしまっていた小説を
拾い上げ、読みかけのページを探しながら快斗の返事を待った。
と、言っても別に大した用じゃないんだろうけど。
うちに来るってことは、奴も暇を持て余したってことなんだろ?

けれど快斗はすぐには答えない。
妙な間があって、オレは不信に思い小説から快斗へ視線をあげる。

すると奴はにっこり笑い、オレはその瞬間嫌な予感がした。

「温泉、行こうぜ!」

「はぁ?!」

ほらね、こういうときの快斗の顔は必ず何か企んでるだよな。
しかも、温泉だって?

「温泉だよ。箱根にいい旅館見つけてさ!」

「・・・いきなりやってきて何言ってんだか。
オレは行かねーぞ。行きたきゃ、お前一人で勝手に行けよ。」

すると快斗はオーバーに肩を落として、『ひどい、新ちゃん』とか
なんとか言いながら、ウソ泣きのマネまでする。
オレはあえてそんな猿芝居を無視して、再び小説の活字に目を
やった。こんなことはいつものことだ。

オレが相手にしないとわかると、瞬時に快斗はウソ泣きをやめて
しれっと言った。

「だってもう、部屋取っちゃったし、ロマンスカーも手配済みだもん。」

「知るか。オレの意向も聞かずに勝手するお前が悪い。
とにかく、オレは連休中に出かけるのは疲れるからごめんだ。」

「知ってるよ。だからあちこち連れまわす気なんてないって。
あえて近場の箱根にしたんだし。温泉入って、美味しいもん食べて
向こうでのんびりしよう。たまにはさ!」

オレがなんと言おうと、快斗は引く気はないらしい。
ま、確かにこれからお台場やディズニーランドとか、明らかに混んで
いそうなアミューズメント・パークに連れて行かれるより、
箱根の温泉ってのはいいかもしれない。
列車の切符も手配してあるなら、並んだりすることもないし。

けど、今から支度するのは面倒くさいのも事実だ。

すると、快斗はリュックをオレに手渡した。

「何、これ?」

「タオルも、パジャマは、ほら浴衣が旅館にあるし、荷物は代えの服と
下着くらいだからそれだけで準備完了。」

どうやらご丁寧にオレの分まで荷造りしてくれていたらしい。
まったく・・・。

オレはとうとう降参して、快斗ともに箱根の温泉に向かうべく
家を出た。

 

 

新宿駅はさすがに多くの人でにぎわっていた。
箱根までは小田急ロマンスカーで75分くらいだったか。
確かに都心から近くて、多くの温泉宿があり、芦ノ湖やら
彫刻の森美術館やら、遊べるところもたくさんあって、
観光地としてはあまりにも有名だ。

快斗の奴、この時期によく取れたな・・・。

ぼんやりそんなことを考えながら、ロマンスカーのホームを歩いて
いると、快斗が駅の売店で立ち止まった。

「昼ご飯に駅弁でも買って、ロマンスカーの中で食べる?」

「え、ああ、オレはさっき食べたばっかだからいいよ。」

「そっか。どうせ着いたらすぐ旅館でご馳走だし、
おなか空かしといた方がいいか。」

快斗のその発想が妙に子供っぽくて、オレは思わずくすっと
笑ってしまったが気持ち的にはよくわかる。

オレたちはとりあえず飲み物だけを調達し、
列車の中に入っていった。

程なくして出発した列車の心地良い揺れと、窓から差し込む暖かい
光にオレは知らずに目を閉じていた。
眠りに落ちる前に見た快斗の表情が、とても満足そうに微笑んでいた
ように見えた気がしたが。

 

まもなく箱根湯本の駅に到着するというアナウンスが聞こえて
オレは目を覚ました。
中途半端に寝たせいか、なんだか無性に眠い。
これってやっぱ、昨夜の寝不足のせいかな?
オレが欠伸をしていると、快斗が網棚にのせてあったリュックを
降ろして、手渡す。

「ほら、新一、降りるよ。ここで乗り換えるから。」

「・・・ん。」

オレはまだ覚醒しきっていない頭で、とりあえず快斗の後をついて
ロマンスカーを下車した。
どうやら箱根登山鉄道に乗り換えるらしい。
隣のホームまで歩いて、2両編成の車両へ乗り込む。

車内はすでに席は埋まっていて、立つしかなかったが、
ロマンスカーで散々座ってちょっとお尻が痛かったからちょうどいい。
さすがに少し混んでいたが、不快な感じはしない。

見渡せば、家族連れやカップルが多く、皆楽しそうに笑っていた。
オレはふととなりの快斗の顔を盗み見ると、これまた奴もみんなと
同じように楽しそうな表情をしていた。

楽しい気持ちは伝染するんだっけ?

列車の窓の外に箱根の豊かな緑を見ながら、オレも自然と笑みが
こぼれていた。

しばらくして、オレ達が下車したのは小湧谷という駅だった。
温泉宿ならてっきり宮ノ下や仙石原だろうと思っていたので
ちょっと意外だった。
小さな改札を出ると、この周辺にある旅館が一覧してある看板が
あった。

「どれ?」

オレがそう聞くと、しばらく看板の一覧を目で追っていた快斗が
意味深な笑顔をオレに送り、とある場所を指差した。
オレはその先に視線を送ると、一瞬、ギョッとした。

『月闇館』と黒い字で書いてある上に、どす黒い赤の汚れが
ついていて、一見それは、血が飛び散ったように見える。
が、良く見れば明らかにそれはペンキで、偶然についた汚れか
はたまた悪質な悪戯かはわからなかったが、
どちらにせよ、これからそこへ行く者としては、いい気分はしない。

「・・・おい、変なトコじゃないだろうな?」

何かいわく有りげだから、こんなハイシーズンでも部屋が確保できた
とか。快斗のやることだし。
オレは快斗を思いっきり疑い始めたが、奴はあっけらかんと言った。

「ただの悪戯だろ?気にするなって。
それより早く行こうぜ。美人の若女将がお出迎えしてくれるって
HPで紹介されてたしさ!」

何だ?その美人女将って。聞いてないぞ!

「ほら、新一。行くぞ!」

快斗が旅館に向かって歩き出したので、オレはなんとなく
納得いかない気持ちのまま後に続いた。

 

 

 

ちょっと、いったんここで切ります。
長くなってしまうので。
3でおわるつもりなのにこれじゃ終わらないよう。
とりあえず、これ5月3日の話ってことで。

2001.04.28

 

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