Happy Barthday 3
5分もたたない内に、森の向こうに小さいながらも趣深い ここが見るからに怪しげな所だったら、快斗を蹴り飛ばしてでも オレ達が門をくぐると、すぐに若女将らしき女性が現れた。 なるほど。確かに美人女将だな。 「予約した工藤ですが。」 「お待ちしておりました。工藤様」 女将がいた手前、怒鳴れなかったが、 「チェック・インしとくから、新一はあっちで座ってお茶でも飲んでてよ。」 ちぇ! オレは仕方なく、フロントの隅の長いすに腰掛け、「ご自由にどうぞ」と書いてあるポットを取った。 これは、七味唐辛子・・? 「そんなに辛くないので、大丈夫ですよ?」 湯のみを覗き込んでいたオレに、通りかかりの女中さんが 「唐辛子の発汗作用で風邪の初期症状なんかにもよく効くし 「そうですか。」 これまた親切な女中さんにオレも笑顔で答え、 「美味しい・・・。」 「でしょう?」 そこへチェックインを終えた快斗がやってきた。 「どした?新一。」 「あ、いや、この七味唐辛子のお茶が美味しくてさ・・・。」 「へぇ。気に入ったんなら、明日帰る時、お土産に売店で買えば?」 フロントの奥に小さな土産物屋があって、そこにはこの旅館の そうだな。明日買って帰ろう。 「工藤様、お部屋へご案内いたします。」 部屋はフロント・ロビーがある本館とは別棟のようで 細かいところまで手入れをされた庭の小道をとおり しかも玄関なんて、そこらへんの家より立派なんじゃないかって そのあまりの豪勢ぶりに開いた口が塞がらなかったオレは 気に入らない・・・・というのではなくて。 「良いお部屋ですね。」 そういったオレの顔はかなり引きつっていなかったか。 「ええ。うちで一番のお部屋ですから。」 げ!何考えてんだ!あいつは!! オレのそんな気すら知らず、快斗はさっきから3つの部屋を 「おい、新一!見ろよ、この露天風呂から見る眺め!!」 はいはい、そりゃあ、絶景でしょうとも。 「それでは、どうぞごゆっくり。 女中はそれだけ言って、恭しく礼をした後、静かに扉をしめた。 彼女の足音が聞こえなくなるのを待ってから、 「おっまえ!!何考えてんだよ。」 「え?何?新一、この部屋気に入らないの?」 「そうじゃなくて、こんな立派な部屋取って大丈夫なのか?」 「なんだ、そんなことか。 言うなり、快斗は服をぽいぽい脱ぎだして、さっさと露天風呂のある 「おーい!新一も早く来いよ!」 曇りガラスの向こうから能天気な声がして、 よし、こうなったら何も気にせず、純粋に楽しむ事にしよう。 オレはそう決めて、背負ったままだったリュックを下ろし、
ガラっと露天風呂の引き戸を開けると、檜のいい香りがした。 快斗は檜の湯船につかって、外の景色を眺めていた。 すると快斗がオレの腕を掴んで引き寄せた。 やばい!・・・キスされる!! そう思ったときはすでに遅く、次には柔らかい感触がオレの こいつ、キスうまいんだよな。 正直、快斗のキスは嫌いじゃない。 そんな風に快斗に溺れる自分は好きじゃないから。 「・・・っつ、う・・ん!やめっ!!」 息苦しさにたまらず、オレが顔を背けると 「やめた。これ以上しちゃうと最後まで止まらなくなりそうだ。 「何言ってんだ!てめー!!」 オレは顔を真っ赤にして叫び、快斗の顔にタオルを投げつけて
露天風呂があまりにも気持ち良くて、どうやら長湯しすぎたらしい。 「ふぅ〜!!あっちぃ!!」 快斗は浴衣の前をはだけさせて、タオルを頭に巻いている。 どんなにだらしが無い格好をしていても、キマる奴っているけど、 ぼんやりそんな事を考えていたら、快斗が冷蔵庫からよく冷えた 「新一、暑くねーの?」 「暑いけど、お前ほどじゃないよ。」 さっき風呂に入ったのが無駄じゃないのかと思うくらい、 「いい風呂だったよな。来てよかったろ、新一?」 「ああ、そうだな。」 窓からは日が落ちたせいか、幾分涼しい風が
しばらくして、夕飯が部屋へ運ばれてきた。 まぁ、得てして旅館の料理って普段食べてる食事の量とは デザートまで食べ終わって、オレ達は満腹すぎて動けないほど
ああ、露天風呂に入ったおかげで体がぽかぽか温かいし けど、あとはもう寝るだけだし、たまにはいいかもな。 なんて再び重くなってきた瞼をこすりながら、ガラにも無く
が!! そんな感謝の気持ちは木っ端微塵に吹っ飛び、 それくらいショックだったのだ。
「実は、金がない。
う、う、嘘だろー!? オレは慌てて自分のリュックの中から財布を捜したが 無銭って・・・。これって法に触れてるぞ! どーしてくれるんだ!!お前はとっくに犯罪者だからいーけど、 「な、なんで金も無いのにこんな立派な部屋に泊まろうなんて オレが震えて睨むと、快斗は肩をすくめて答えた。 「宿代くらいでガタつくなよ、新一。 腕を組んで開き直っていうその台詞にオレは怒りで赤くなったり 「・・・お前、まさかキッドになってトンズラするつもりじゃ オレが冷や汗が滴る思いで快斗と睨んだ。 「ふざけんな!!」 オレが激怒して怒鳴ると、快斗は腕組みを解き、
「心配には及ばない。いい手があるんだ。」
夜の風がかすかに吹いて、快斗のクセのある髪をふわりと 開けきった大きな窓の外の闇を背にした快斗は、
ああ、疲れた。 2001.04.29
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