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NOVEL

君の心に届くまで

 

2  6月突入  〜 Side : K 〜

 

6月は鬱陶しい梅雨の季節だし、何の祝日も無く、とかく人には嫌われがちな月らしい。あ、でもジューン・ブライドとかあるから、花嫁さんだけには憧れの月かもしれないけど。

でも、人がなんと言おうと、オレは6月が大好きだね。
だって、オレのめでたいお誕生日月なんだからさ。
何か良い事ありそうだろ?

ってなわけで、いよいよやって来ました!オレの6月!!
誕生日まで1ヶ月切っちまったけど、新一の方は首尾はどうだろう?
何か作戦は思いついたかな?
ま、今日あたり様子を伺いに行くとしよう。

オレがバックに教科書を詰め込んで帰り支度をしていると、クラスメートの1人が声をかけてきた。

「おい、黒羽、お前、もしかして忘れてんじゃないだろーな。」

「え?何が?」

「・・・やっぱり、忘れてたのかよ。前に言ったろ?
今日、放課後に体育委員会の打合せをするって。」

「・・・あ、あ〜、あれ、今日だったっけ。」

そういえば、そんなこと言われてたような気がする。やべ、忘れてた。
確か、9月に行われる体育祭の競技やらを決めるとかなんとか・・・。

「ほんとは先週だったのに、お前が学校に来ねーから、わざわざ今日に日程をずらしたんだろ?なのに、忘れてるとはいい度胸じゃねーか。」

・・・申し訳ない。
先週は、確かに仕事(?)の下調べで学校を休ませていただきました!

「悪かったって。今日はちゃんと出るからさ。で、どこでやんの?」

「駅前の定食屋。もうみんな行ってるぜ?」

体育委員会はなぜか委員長のお気に入りの駅前の定食屋で行われる事が多い。
・・・ってことは、今晩の夕食は新一と一緒には食べられないか。
仕方ねーな。委員会サボるわけにはいかねーし。

オレは携帯を取り出すと、その旨を連絡するメールを新一へ送った。
『新一もきちんとごはん、たべてね!』ってな具合に。

配信確認の後、新一からの返信メールが届く。
液晶画面に映し出された文字はたった一言。

『 了解。 』

・・・・。いいんだけどさ、別に。
新一が電話もメールも嫌いは知ってるしね。いつだって用件のみだもんな。

オレがメールしてるのを気づいたクラスメートが、面白そうにのぞきこむ。

「何だよ、黒羽?もしかして、この後、彼女と約束でもあったのか?」

「・・・まぁね。それより、さ、行こうぜ!」

オレは曖昧に笑って、そいつの肩をたたき、駅へと急いだ。

 

*    *    *    *    *    *    

 

委員会は予想以上に白熱し、当初の予定時刻をややオーバーしてやっとお開きとなり
オレが米花町の駅に着いたのは、午後8時を既に回っていた。

改札を出ると、どこかで雨が降っているのか、空気がやけに湿っぽい気がした。
見上げた空はどんよりと曇っていて、星ひとつ見えない。

雨が降り出す前に早く行かねーとな!

そう思って足早に新一の家へ向かった。

あと少しでたどり着くという所で、真っ暗なはずな夜空が一瞬明るく光った。

え?

そして次には轟音が鳴り響く。

うわ〜!雷かよ。
と思う間もなく、今度は空から大粒の雨が矢のように降ってきた。

げ〜!!
慌てて走り出すが、土砂降りの雨が一気にオレの体を濡らした。
ここまで濡れては、今更傘を買うのも無駄だし、このまま新一の家に向かった方が早い。
なんだよ〜!今日雨が降るなんて、聞いてねーぞ?

オレはバシャバシャと水溜りを蹴って、急いで行きなれた洋館の門をくぐった。

リビングに明かりが灯っている。
新一がちゃんと帰ってることを確認して安心する。

で、ドアノブに手をかけて、相変わらずきちんとチェーンロックまでされてることに感心する。

・・・いや、別に、世の中物騒だし、戸締りはきちんとすべきだとは思うけどさ。
なんだかなぁ〜・・・。オレが来る事知ってるクセにやってくれちゃうあたり、ちょっと淋しかったりして・・・。

なーんてね。まぁ、別にこれくらい開けるのなんてチョロイからいいんだけど。

そう思って、ロックを解除しドアを開けると、とたんに新一の声がした。

「わっ!」

オレは新一のその声に驚いたけど。
絶妙のタイミングでドアを開けたオレに新一は驚いたらしい。

「なんだよ、新一ィ、びっくりしちゃったじゃん!」

そう言っておどけてみせると、新一はびしょぬれのオレを見て溜息をついた。

「・・・お前、コンビニで傘を買おうとか、思わない訳?」

「いやぁ、だってもう少しで新一の家だっていうところで、
いきなり降られちゃったんだもん。」

ぺロっと舌を出して言い訳すると、新一の手に傘が2本あるのに気づいた。
1本は新一のだけど、もう1本は・・・。
新一はもう用は無しとばかりに、2本の傘たちを傘立てにしまった。
オレはその様子を見ながら、雨に濡れて張り付いた髪をかきあげる。

「新一、迎えに来てくれようとしてたんだ。
なら、もう少しゆっくり帰ってくればよかったな。」

そうしたら、一緒に帰れたのに。でもこの大雨じゃ、傘があっても無駄だったかも。
きっと二人とも雨に濡れていたに違いない。
そう思えば、新一が濡れなくてすんだわけだから、
やはり走って帰ってきたのは正解だったのだ。

そんなことより、新一が自分を迎えに来てくれようとした、
その思いが、たまらなくうれしい。

オレは新一の方を軽く引き寄せ、その頬にキスをした。
唇に新一の体温を感じる。その暖かさが心地良くて、もっと味わいたくて背中にも手を回した。

すると、今まで大人しくしていた新一がいきなりオレの腕を引き剥がしにかかった。

「バカ言ってないで、早くシャワー浴びて来い!そのままじゃ風邪引くぞ!!」

言うなり、新一はリビングへ消えてしまった。

ちぇ〜!
オレはがっくり肩を落とし、なるべく床を濡らさないよう気をつけながら
まっすぐバスルームへ向かったのだった。

 

 

シャワーを浴びてさっぱりした後、新一がいるだろうリビングの戸を開けて様子を窺がう。
と、ソファに沈んで本を読んでいる新一の姿が目に入った。

ふーん・・・読書中か。と、いうことはしばらくは構ってもらえねーな。

再びドアを閉めて、2Fのオレの部屋として占領してる客室の一つへ
プレステとゲームソフトを取りに行く。

で、TVの前でゲームのセッティングをする。
新一の読書の邪魔にならないようにボリュームは小さめにして。
結構、気を使ってるんだ、これでも。

新一が読書が大好きなことや、その邪魔をされる事が大嫌いな事を
ちゃんと知っているからね。
やっぱ、それぞれ1人の時間ってのも大事だとは思うし。

そう思いながら、ゲームをスタートさせた。
クラスメートから借りてきた新作は、なかなか面白そうな内容で
オレは意識をそっちへ集中させていった。

 

・・・見られてる・・・よな。

しばらくして、背中にチリチリと視線を感じた。
ゲームをしながらも、背後の新一の気配を窺がう。

そういや、先ほどから本のページをめくる音がしない。
考え事・・・。やっぱ、アレかな・・・。

ふむ。オレはしばらく考えて、それから新一を振り返った。

「新一、コーヒーでも入れよっか。」

「お、おう。」

今更、視線を本へ戻したって、バレバレだっつーの。
オレはそんな子供みたいな新一のごまかしをクスリと心の中で笑った。

「んじゃ、すぐ用意するね。」

キッチンへ向かうオレを新一がばつが悪そうに見ているけど、
素知らぬ振りをして、お湯を沸かす。
マグカップを二つ用意して、それぞれの好みにあったものを入れた。
新一には苦めのブラック。
オレは砂糖とミルクをたっぷり入れて、カフェ・オレ風に。

新一にカップを差し出すと、サンキュ、と小さく礼を言って受け取った。
しばらくお互いに無言でコーヒーをすする。

今ここで、誕生日プレゼントに何が欲しい? なんて、聞かれたって
そんなこと教えるつもりはないけどね。
だってそれは、オレが教えるんじゃなくて、新一に考えてもらう事に
意義があるわけだからさ。

まぁ、もちろん、新一の性格からいって、そんなこと聞いてくるはずは無いと思うけど。

すると、新一が上目使いにオレをチラリと見た。

「なぁ、何でそんなボロ着てんだよ?他にいくらだってあるだろ?」

・・・いきなり何を言うかと思えば、服の話か。

「え?いいじゃん。オレが気に入ってるんだからさ。」

そう言ってやると、新一は納得できないような表情をしていた。

ふーん。オレがどうしてこんなヨレヨレ、気に入ってるかわからないって顔してるな。
いや、ほんとはさ、部屋着用に自分の服とか持ってきても良かったんだけど、
あえて持ってこないのは、新一の洋服を着たいからなんだけどね。

で、コイツを選んだわけは、ただ一つ。
ここまで着古されたってことは、新一もかなりお気に入りだったってことだろ?
だから、オレも着たいんだってば。
この新一の匂いが染み付いたシャツをね。

それから、オレたちは今日、学校であったことなど他愛の無い話をした。
あえて自分の誕生日ネタの話をしないのは、お祭り好きだと知られているオレの性格からして、不自然に見えるかもしれないが。

今はまだ、我慢の段階。

すると、新一がふぅ〜っと溜息を漏らした。

あれ?もしかしてプレッシャーかけすぎちゃったかな?

なんだか、新一がかわいそうに思えて、その掌を取って口付ける。

「気分転換でもする?」

そう言って微笑んでやると、新一の顔がみるみる赤くなっていった。
え?なんだ?どうしたんだ?

「シャワー、浴びてくる!!」

とたんにオレの手をものすごい勢いで振り払い、
新一は逃げるようにリビングを出て行った。

なんなんだ?
まだ、何もしてないのに・・・・。

オレは呆然と新一の出て行った戸を見つめているしかなかった。

何があったか知らないけど、なんだか反応が過敏になってて面白いな。よし!シャワーからでてきたら、もっとちょっかいだしてやろ〜っと!!

オレは1人ニヤけていたのだった。

やっぱ、6月は何をしてもツイてるんだ、きっと。

 

 

快斗お誕生日小説第2話《6月突入〜Side:K〜》でした!
まだ、快斗が優勢な感じ。
今回、同じシーンを二人それぞれの立場から書いてみました。
書きやすかったな〜(笑)

2001.06.08

 

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