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NOVEL

月光の下 踊れ 尚更

想いの願望む理想があるでしょう

 

踊れ 歌え 陽光の輪の中 暗黒に紛れ

 

 

    LUNAR ECLIPSE ー 月蝕 ー 


 Lot.4 

 

とあるマンションの一室、快斗はデスクにノート・パソコンを開き、頬杖をついて
画面の中を覗いていた。
素早くキー・ボードを操作しながら見ているのは、何やらどこかの建物の見取り図のようであるが。

そう。快斗が今見ているのは、次の仕事場である美術館の設計図であった。
潜入するにあたり、セキュリティ状況がどの程度のものか把握しておこうと、データをハッキングしていた
ところである。

・・・にしても、スッゲー警備だな。

独自に開発した最新式のセキュリティ・システムを導入しているとは、聞いていたが。
なんとも厄介なシステムである。

まぁ、メイン・コンピューターにアクセスして、全てのシステムを停止させてしまうなんて方法も
やってやれないことはないのだが。

・・・めんどくせ〜なぁ・・・。

快斗はもともと骨の折れるようなことはしない主義であった。

・・・さて、どうするか。

ギィと椅子の背もたれに寄りかかり、天井を仰ぐ。
そこへ、ドアが開いて1人の老紳士が入ってきた。手にはカップを乗せたトレイを持って。
甘い香りが部屋中を立ち込める。ココアだ。

「・・・快斗ぼっちゃま、首尾はどうです?」

言いながら寺井はデスクの上にカップを置いた。

「・・・ん〜・・・。」

快斗はカップに手を伸ばし、舌を火傷しない程度にアツアツのココアをすすった。
寺井は快斗の後から、パソコンの画面を覗き込む。

「確かに、完璧なシステムですね。厄介なのは、このおかげで今回は警備員の動員数が
最低限しか確保していないといった点ですか。」

言われて、快斗はフンと鼻を鳴らした。
そう。確かにその通りなのだ。
システムを崩すことなく、侵入するためには警備員に紛れる方法が一番手っ取り早い。
変装ならもってこいの怪盗キッドではあるが。

美術館に配置されているのは、わずか5人。

実は警備員は大勢いた方が、何かと動きやすい。
そんなキッドのやり方を逆手に取ったようなこの警備体制。

・・・もしかしなくても、あの厄介な探偵殿が絡んでんだろうなぁ・・・。

快斗はふぅ〜っと溜息を漏らした。
それを見て、寺井が声をかける。

「・・・美術館周囲はどこも完璧な警備システム。どこから攻めるおつもりですか?」

その問いに、快斗は寺井の顔を見つめると。
次には、ニヤリと笑って、こう一言。

 

「簡単だよ。どこから攻めても同じなら、正面玄関だ!」

 

 

◆       ◆       ◆

 

 

怪盗キッドの犯行予告約10時間前、江古田高校。

午後の休み時間、白馬の席の前にクラスの女子生徒が群がる。

「ねぇねぇ、白馬君!今夜のあの怪盗キッドと対決するんでしょう?新聞に大きく記事が出てたけど!!」

スゴイよね〜!と彼女達の悲鳴が上がる。

白馬が警視総監のご子息で探偵である事はすでにマス・メディアに取り出たされ、学校でも
周知のこととなっていた。
そして、彼が怪盗キッドを捕らえるためにわざわざロンドンから帰国したのだという事も。

「青子のお父さん、いっつもやられっぱなしだったから、これで挽回してもらえるといいね!」

女子の1人がそう青子に笑いかけるが。

「・・・ほっといてよ!お父さん、あれでもがんばってるのよ?!だいたいキッドがいけないんだから!
ほんとに白馬君もがんばって、ぜひアイツをひっ捕まえてよね!!」

「ああ、でも。キッドが捕まっちゃうのもなんか淋しいかも〜。だって彼、かっこいいし!!
なんかそこらへんのアイドルなんかよりもステキじゃない?私、実はファンなんだ〜!」

と、1人がそう言うと、私も私も!!と次々にキッドのファンだと名乗り上げる声が後を立たない。

そんな声を机に突っ伏したままで、耳にしていた快斗はその口元を少し上につり上げていた。

・・・人気急上昇中ってとこかな♪

 

すると、騒ぎまくっていた女子の前で、白馬が静かに口を開く。

「皆さんはキッドの事を少し誤解されているようですが・・・。
所詮、彼は一犯罪者に過ぎないのですよ?警察の目を欺いて盗みを重ねるなど許されぬ事。」

言われて、女子達はしゅんと沈黙するが。

「え〜・・・。でも、キッドは盗った宝石をちゃんと返すんでしょ?なんか悪戯好きの子供みたいだし。」

やっぱり怪盗キッドを支持する声はそう簡単には消えなかった。
青子は面白くなさそうに膨れっ面をし、白馬はその様子を黙って見つめていた。

「・・・そう。彼の最大の謎はそこにあります。何故、わざわざ盗んだ宝石を返したりするのか?
この謎を解くことが、彼に近づく一歩だと僕は考えているのですが・・・。」

と言いながら、白馬がふと考えにふけるようなしぐさをして見せると、
今度は女子生徒達はその姿に見惚れて、ぽ〜っと全員頬を染めたのだった。

「・・・なんか、やっぱり白馬君って探偵ってカンジでかっこいい〜!!
そういえば、キッドのためにわざわざロンドンから帰国したって話、本当なの?」

そう自分に詰め寄る女子生徒に、白馬はその目をキラリと輝かせると。

「・・・ええ。彼は、僕の思考を狂わせた唯一の存在ですから!」

そうニッコリと笑って言った。
その気障な台詞を聞いてまたもや女子生徒達から、いっせいに黄色い悲鳴が上がる。

 

・・・うるせー・・・っつーの!

快斗は欠伸をしながらようやく起き上がり、女子生徒に囲まれてる隣の白馬を見やる。

 

「なんか、白馬君にならキッドが捕まるのも許せちゃうかも〜!!」

さっきまで自分を支持していたはずの女生徒達の思わぬ台詞に、快斗は僅かに眉をつり上げるが。

 

・・・コラコラ!何言ってんだ!こんなヤツに捕まってたまるかよ!

 

すると、白馬がこっちを向いたので、快斗とばちっと視線が合う。

「おや、黒羽君。ようやくお目覚めですか?午後の授業もこのまま寝たきりだったらどうしようかと
思いましたよ。昨夜はよく眠れなかったのですか?どうやら寝不足のようですね。」

・・・ほっとけ。
今夜の仕事の件でいろいろ下調べしてて、ほとんど寝てねーんだよ!

「・・・別に。お前こそ、今夜でかい仕事あるクセに、こんなトコでのん気にしてていいのかよ?」

心の内を隠した上で、快斗はそう言いながら、少し冷めたような目線を白馬に送った。
対して、白馬はいつものさわやかな笑顔でにっこり返す。

「ええ。一応、手筈は整ってますから。後は僕は現場に赴くだけです。」

・・・へぇ?ずいぶんと余裕じゃねぇ?

「・・・あっそ。にしても、大した自信だな。」

「そうですね・・・、キッドについてはいろいろと研究させて頂いてますので・・・。
君も、今夜こそ、この僕がキッドを捕まえられるよう祈っていてください!」

余裕たっぷりの笑みでそう白馬に言われて、思わず快斗はぽかんと口を開けてしまっていた。

・・・アホか!そんなこと祈れるわけねーだろっ!!

なんて思いながらも、溜息をつきながら適当に返事をしておく事にする。

 

「・・・ま、せいぜいがんばれよ、名探偵・・・。」

 

 

◆       ◆       ◆

 

 

犯行時刻20分前。

美術館近辺の主要道路はすべて交通規制されており、厳重な検問が行なわれていた。

その規制範囲の枠からほんの道1本隔てた通りに黒のジャガーが停まっていた。
中には運転席に男性が1人、後部座席には美しい少女の姿が見える。

透き通るほどの美少女である。
つやのある黒髪が腰のあたりまで流れ、肌の白さを一層引き立てている。
衣装は淡いブルーのワンピースをまとい、まるで聖女のような気品をたたえて。

彼女の名は、鏑木 さやか (かぶらぎ さやか)。16歳。
今夜、キッドが狙うブルーダイヤの正当なる持ち主であり、その展示されている美術館館長でもある
鏑木財閥会長のたった一人の娘である。

が。

その美しい顔も身体もすべてフェイク。

つまりは、あの怪盗キッドの完璧なまでの変装なのであった。
ちなみに運転席にいるのは、寺井である。おまけにいうと彼も一応変装している。

 

「・・・じゃ、寺井ちゃん。作戦の最終チェックをしとこっか!」

顔だけ美少女のキッドは、不敵にそう笑った。

「美術館敷地内に入ったら、奥の館内駐車場を回って例の仕掛けの準備を。
セット完了次第、安全圏に避難し、オレからの連絡があるまで待機っつーことで。OK?」

「了解です、快斗ぼっちゃま。」

運転席の寺井がニコリと振り返る。それを見てキッドもニヤリとした。

 

「んじゃ、そろそろ行くか。以降は、『さやかお嬢様』でよろしく!」

 

キッドのその言葉を合図に、ジャガーにエンジンがかかる。
夜も更けた人通りの少ない細い道を、不釣合いな高級車が走り抜けていった。

 

 

やがて、寺井の運転するキッドを乗せた車が検問へと差し掛かる。

「免許証を展示してください。ここから美術館方面の道は一部封鎖されていますので、
迂回するように。で、どちらへ行かれるんですか?」

警備員のその質問に、寺井は免許証を見せつつ、後の少女を振り返る。

「あ、あの・・・。お嬢様がどうしても美術館へ行きたいと・・・。」

その寺井の言葉に、警備員達は後部座席に乗る少女の顔を覗き込んで、ハッとした。

「か、鏑木財閥のご令嬢!!こ、こんなところでどうしたんですかっ!?」

少女は、そんな警備員達の目に少し脅えたような表情を作ると、か細い声で言った。

「・・・あ、あの。ごめんなさい。どうしても、私のダイヤのことが気になって。
無理を承知で来てしまったんです。どんなに頑丈なシステムだって、やっぱり盗られた時のことを
思うと心配でいてもいられなくて・・・。」

少し涙交じりでそう言ってやると、警備員達はどうしたものかと相談をし始めた。
いかなる部外者も美術館内に入れるなとの指示はでていたものの、さすがにその持ち主であり
大財閥のご令嬢を無下に追い払うことなどできない。

それこそが、キッドの狙いなのだが。

「・・・少し、お待ちいただけますか?今、確認してまいりますので。」

警備員達はそう言うと、車から離れて携帯電話でどこかへ連絡を入れ始めた。

その様子を見ながら、キッドは心の内で笑う。

どーぞどーぞ!どこへでも連絡しな!
鏑木会長んちに電話したって、回線はオレが握ってるんだもんね!

 

「・・・こちら、交通取締り班、Bブロックです。ただいま検問に鏑木会長のお嬢様がいらっしゃりまして。
・・・ええ、会長宅には既に確認済みで本人には間違いありませんが。で、どうしても美術館に入りたいと
おっしゃってるんですよ。・・・ええ、はい。会長も彼女の言うとおりにしてやってほしいって・・・
どうしますか?・・・・あ、はい。わかりました。じゃあそのようにします。」

電話を切り終わると、警備員達は再びジャガーの前に走ってやってきた。

「すみません!!お待たせしました。今、美術館内に入る許可を取ってきましたので。
ただ、申し訳無いんですが、警備上の都合により、このお車から下りて、我々の車で
行っていただけますか?」

そう言って、警備員の1人が後ろ側のドアを開ける。

 

・・・チッ!このまま楽勝でここを通過できるはずだったのに。
余計な指示だしやがって。白馬のヤロウだな?

 

そう思いつつ、さやかの顔をしたキッドはジャガーから下り立つ。
同時に運転席の寺井も下りた。

「・・・では、あちらの車に。」

そう言って、警備員が少女を別の車へと案内する。
彼女は、寺井の横を通りすぎるその僅かな瞬間に、目配せをした。

 

(・・・仕方ない。ここは退いてくれ。)

(・・・了解しました。例の場所で待機しております。)

 

そうして、少女に変装したキッドは警備員と共にパトカーで美術館に向かう事になったのである。

 

 

◆       ◆       ◆

 

 

車中、窓の向こうの景色を見ながら、鏑木さやかの顔をしたキッドは、幾分狂ってしまった
今夜の計画について修正案を考えていた。

・・・ま、別に大したことじゃないけどさ。
寺井ちゃんに仕掛けてもらう予定だったのは、目くらまし用の花火だし。
大仕掛けが無いと地味になっちまうけど、ま、仕方ねーか。

・・・どうやら、派手に演出したかっただけのようである。

そんな彼女の様子を見た警備員が優しく声をかけてきた。

「大丈夫ですよ?今夜という今夜こそは、必ずキッドを捕まえてみせますから!
何しろ、我々にはあの名探偵がついてるんですからね!!」

・・・ハハ。

「・・・それは良かった。」

少女はその唇に微笑をたたえて見せたが、内心実に乾いた笑いだったことは言うまでも無い。

さて、そうこうしているうちにパトカーが美術館の門を通り過ぎ、入り口の前で停まった。
と、同時に入り口に待機していた警備員達に出迎えられる。

もちろん、そこには白馬の姿もあった。

・・・ヤロウ!さっきはよくもやってくれたな!

そう思いながら、さやかの顔をしたキッドが車から下りようとすると、白馬が一歩前へ踏み出す。
そしてその右手を少女の方へ差し出した。

・・・なんだよ?この手は。

そう思って、マジマジとキッドは白馬の手を見つめる。
すると、白馬はすっとその目を細めて、少女の顔を見た。

「お手を、どうぞ。」

瞬間、白馬の日本人にしては色素の薄いその瞳に鋭い光が浮かび上がり、まっすぐにキッドの
目の中に差し込んだ。
キッドの背筋にゾクリと冷たいものが走る。

 

・・・まさか、バレた?!

 

化けの皮がはがれたような気がして、キッドは息を呑む。

 

・・・いや。そんなはずはない!!オレの変装は完璧だ!

 

ほんの僅かに生まれた心の動揺。
それでもそんなものを微塵にも感じさせない完璧なポーカーフェイスで、キッドはその手を白馬へと
差し出す。

白馬は差し出された白い手を優しく握った。

「・・・ありがとう。」

車から下りるのを手伝ってくれた白馬に、キッドはさやかの顔で妖艶な笑みを送る。
白馬もそれに笑顔で答えた。

 

そうして。
美術館内に入ると、白馬は警備に戻ると言って、さやかの顔をしたキッドの前から姿を消した。

・・・何だ。さっきのはやっぱ気のせいか。

心もちキッドは安堵の溜息をもらすと、早速仕事に取り掛かった。
中に入ってしまえば、後はダイヤの防犯装置を解除するのみである。

人気のない美術館の中を少女が軽やかな足取りで進む。

その美しい少女の顔は、紛れもなくあの大怪盗の表情になっていた。

 

ピーという小さな電子音が鳴る。
と、同時にガラスケースの中から、輝くばかりのダイヤがその姿を現した。

・・・よっし!いただき!!

そう思って、少女の白い手がダイヤを掴みかけたところで、背後に黒い影が浮かび上がる。

 

「待っていましたよ?怪盗キッド。」

キッドは愕然となった。今の一言で白馬が自分の正体を見破っていた事が明らかになったからである。
確かに、今、この現場を目撃されては疑われるのも無理は無いが。

白馬の持ち場はここではなかったはずだった。
なのに、ここへ来たということは最初からさやかの行動を疑っていたということになる。
今まで誰一人見破れなかった怪盗キッドの変装を、白馬はいつ、どうやって看破したのか。

白馬は薄笑いを浮かべて続けた。

「まさか鏑木会長のご令嬢に化けてくるとは・・・。さすがは変装の達人。見事なものですね。」

キッドはとぼけてみることにした。

「・・・一体、何のことですか?私は自分のダイヤが無事かどうか確かめに来ただけですけど。
だって、警察の方々って、いつもキッドにやられてるんですもの。」

と、いかにもかわいらしい少女の笑顔付きで。
ただ、いい終えて、我ながらクサイ芝居だと思った。案の定、白馬は笑いを崩さない。

「愚かなマネは止したまえ。君が車でここに着いた時から、僕には君の正体がわかっていた。
少女のふりをしていても、一分の隙も無い。その眼くばり、足の運び。
タダモノでないことはお見通しだよ?」

 

・・・こりゃ、マズイ。完全にバレてやがる。
けど、こうもあっさり正体を見破られちゃあな。こっちにもメンツってもんがあるんでね。

もう少し、おちょっくってやろ!

キッドは演技を続行した。

「まぁ恐い!!あまりヒドイことをおっしゃると、お父様に言いつけるわよ!」

すると、白馬は足早にキッドに近寄り、今はまださやかの変装を解いていないキッドの華奢な腕を
掴み上げた。

「きゃっ!!痛い!!」

逃げようと思えばいくらでも逃げる事などできたのに、ここへ来て真剣にさやかを演じているキッドは
敢えて捕まってみせる。
黄色い悲鳴まであげたのは、さすがとしかいいようが無い。

「・・・本当にこれが変装とは。まるで美しい少女そのものなのに。」

言いながら、あいている方の手で、白馬はさやかのマスクを被ったキッドの頬を優しく撫でた。

 

・・・げっ!ヤメロ!!このバカ!!

 

キッドは慌てて白馬のその手を払い除け、捕まれている腕も振り解こうとした。

が。

とたんに白馬はギリっと信じられないほどの力で、その腕を握り占めたので
それは叶わない。

 

・・・イッテー!!こっの!!

 

「もうこの手は離しませんよ?怪盗キッド。」

そう余裕たっぷりの白馬の笑みを見せられて。

とうとう観念したキッドは、その造りだけはさやかという少女そのものなのに、
あの怪盗独特の不敵な笑いをして見せた。

「やっと、正体を表わしましたね?キッド・・・っつ!!」

そう白馬が言ったその瞬間、目もくらむような激しい光に一瞬視界が奪われる。

 

そして。

次に白馬の眼に映ったのは。

純白のマントをたなびかせて、シニカルな笑みをたたえた白い怪盗の姿。

 

「・・・キッド!!」

確かにその手を掴んでいたはずなのに・・・!!

白馬は数メートルも上に位置するテラスの上から、こちらを見下ろす怪盗を悔しげに見つめる。
そんな白馬を見やって、キッドは笑う。

「・・・さすがは名探偵。私の変装を見抜いたのは、貴方が初めてですよ?」

それだけ言うと。

獲物のブルーダイヤを掲げて見せると、その窓からふわりと飛び降りた。

 

そして。

1人残された白馬は、先程までキッドの腕を掴んでいたはずの自分の手を見つめる。

その手には確かに彼の感触が残っていた。

 

 

◆      ◆      ◆

 

 

結局、今回のキッドの獲物も残念ながら、パンドラではなく。

実は、盗んだその日の内に無事美術館へと返却され、一応白馬探偵のお手柄ということで
幕は閉じることになる。

 

翌日、江古田高校。

朝のHR前の教室は、やはり女子生徒が白馬を取り囲んで、昨夜のキッドとの対戦のことで
話は持ちきりである。

 

「え〜っ!!じゃあじゃあ、白馬君、キッドの腕を掴んだの?」

「・・・ええ、まぁ正確に言えば、鏑木さやか嬢に変装しているキッドの腕、ということになりますが。」

とたんに、きゃ〜っと黄色い悲鳴が響き渡る。

「それって、一時的でもキッドを捕まえたってことじゃない?!白馬君、すごい!!
・・・・で、キッドの腕ってどんな感じ?やっぱたくましいのかな?」

「・・・どう・・・と言われても。そうですね、完璧に女性に変装できるくらいでしたから、
意外に華奢なのかもしれません。掴んだ感じも細かったですし。」

 

・・・なんだと?!

隣の机でやはり突っ伏していた快斗は、その白馬の台詞に聞き捨てならんと眉を僅かにつり上げる。

 

と。

チャイムが鳴り、担任教師が教室に入ってくる。
今日は特に大した行事予定もなく、難なくHRが終わると、1時間目の始まりとなる。

「黒羽君、1時間目は体育だよ?更衣室まで一緒に行かないかい?」

白馬が相変わらずにこやかに快斗にそう笑いかけるが。
快斗はそんな白馬の方をチラリと見やるだけ。

「・・・悪いけど、パス。オレ、保健室で寝てるから。」

それを聞いた青子が、口を挟む。

「こら!快斗!!またサボる気?!」

「・・・ちげーよ。ほんとに具合悪いの。んじゃな!」

言いながら、快斗はガタンと席を立つ。
もちろん、具合など悪いわけない。しいていえば、寝不足なだけだ。

「言われてみれば、顔色が少し悪そうですね。大丈夫ですか?保健室まで僕が送りましょうか?」

・・・だ〜っ!!
余計なお世話だっつーの!!

「・・・大丈夫だから、お前は早く体育に行けよ。」

いささかうんざりした面持ちでそういい残すと、快斗は教室を出た。

 

大きな欠伸を一つ、保健室へと向かう。

幸いなことに保健室には誰もいなかった。
さぁ、せめて午前中だけでも寝かせておうと、快斗は学ランを脱いでベットに潜り込む。

シャツも適当に着崩して楽な体勢を作ったところで、ふと腕を見やる。

そこには、くっきりと昨夜、白馬に掴まれた跡が痣となって残っていた。

・・・ったく。
白馬のヤロー、コレじゃ体育なんてできるわけねーだろっ!

・・・コレが消えるまで、しばらく気をつけなきゃだな!

 

そう思いながら、布団に包まると、快斗はあっというまに心地良い眠りの世界へと
引き込まれていったのだった。

 

 ◆ To Be Continued ◆



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久々の白K!
ああ、やっぱ対決ものは書いてて楽しい。
今回は、意外に手ごわい白馬氏を目指して・・・(笑)。

本当は、今回の話で白馬氏にキッドの正体が「もしかして、黒羽くん?!」的なとこまで
勧めたかったのですが・・・。
話的にそこまで進まず、こんな形に。

まぁ、次回あたりそう言う路線で。

 


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